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❖紅 -side 椎名優斗-
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ハマっていたミステリー小説を読み終えた。
男に告白し続けた男の想いは見事に恵まれ、幸福を手に入れていた。
だが、最終局面で起きた殺人事件の犯人は最後まで捕まらず、捜査班の思いも虚しく迷宮入り。
後味がいいのか悪いのか、つい見入ってしまった。
ソファで眠る陸の横顔が可愛い。
まるで天使だ。
天使の腕には怪獣のぬいぐるみが抱かれている。
「……大好きなんだな。陸も」
そっと頬に触れたとき、玄関からガタッと音が聞こえて立ち上がった。
思ったより早かった。
「亮雅さん、おかえりなさい。少し早かっ____」
ドアが閉まる。
玄関に立っているのは、亮雅さんじゃなかった。
唖然とした顔をこちらに向けた男が、「ああ」と声を出す。
「あんたが……」
「へ、?」
「いや、ここの家主はどうした」
黒ずくめのスーツ男は靴を脱ぐと勢いよくこちらに迫ってきて、思わず腰が抜けた。
「だ、誰なんですかッ……いきなり、入って……」
「あ?」
「っ! ここに……なんの用なんですか。家主は、俺ですが……」
一回りも体の大きい男にたじろぐが、亮雅さんと陸になにかあったらマズい。
それだけは許せない。
震える手もキツくにぎり男をにらむ。
「ちゃうやろ。ここに"松本亮雅"っちゅうヤツがおるはずや、なんで隠すんや。奥か?」
「待ってください! 奥には誰もっ……」
閉めていたリビングのドアを開けようとする男の腕をとっさにつかんだ。
ツーブロックに眉毛の刈り上げ、そして指の刺青。
どこから見ても普通じゃない。
俺がどうなっても陸にだけは、近づけさせたくない。
「……兄ちゃん、オレにビビっとんか?」
「なっ……勘違い、です。ここから先は絶対、通しません……!」
「手震えとるで。オレぁ、亮雅の友人や。な? ここ通してくれや」
「そんなの、信じられるわけないじゃないですか。インターホンだって鳴らさないし……」
タバコの臭いが鼻につく。
借金取りか……?
いや、亮雅さんが借金するほどの問題は抱えていないはずだ。
頭が混乱して真っ白になる。
こちらを凝視する男の目がある一点を捉えた。
そして胸ぐらをつかまれた瞬間、身の危険を感じて目をつぶる。
「ッ!」
「おいてめえ」
「…………あ?」
男の背後から聞こえた低音に力が抜けていく。
玄関には紙袋を提げた亮雅さんが立っていて、今にも殴りかかりそうなほど眉間にシワが寄っていた。
「おぉっ! 亮雅やーん! なんや、帰っとらんかったんかい」
「……お前、今泉か?」
へ……? イマイズミ?
体を解放されてその場にへたれこむ。
亮雅さんは数秒ほど呆然としていたが、俺と目が合うと同時に男へ歩み寄り尻を蹴った。
「アウチっ! いってえな、何すんねん!」
「正体が分かって余計に腹が立ってきた。お前、優斗に手出しやがったな?」
「はぁー?! 出しとらんて! 胸ぐら掴んだだけや」
「それが出してるっていうんだよ、ボケ。高校のダチだからってなんでも歓迎なわけねえだろ」
高校の、ダチ…………
俺と亮雅さんは系統が違いすぎる。
こんな怪しい男が友人だなんて……!
「悪かった、優斗。大丈夫か」
「す……すいません。俺、その人が危険人物だと思って……」
「どう見ても危険人物だ。優斗は間違ってない」
「なんでやねーん! そういうんは良くないで。善良な市民やし」
手の震えが治まらない。
こんな情けない姿、亮雅さんに見せたくないのに。
男はどうやら亮雅さんの同級生で約5年ぶりに電話をかけてきたものの、アポなしでここへ来たらしい。
正直、心臓に悪いし迷惑極まりない。
「なんや、よー見たら可愛いやっちゃな。さっき触った感じ胸はないんやけど女やったか?」
「殺すぞ」
「そない睨まんとってや〜。ユウトっていうたな? さっきはビビらしてすまんわぁ」
「……亮雅さん」
「ん?」
「この人は、本当に友人なんですか」
やっぱり亮雅さんとはタイプが違いすぎる。
ここまで失礼をこうむる男が亮雅さんの友人なはずがない。
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