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簡単に弁当を作り、亮雅さんの車で板橋のテーマパークまで向かった。
チャイルドシートも卒業とともに外れた陸は俺の隣ではしゃいでいる。
粘土で作ったパンプキンと怪獣のぬいぐるみ「カイしゃん」が今のお気に入りらしい。
「パプのアタァーック」
「いたっ、暇人か。頭とれるよ」
「ゆうしゃんのてて、おいしいニオイする。ラムネっ?」
「バニラな。陸の手も同じ匂いするよ、前に石けん変えただろ?」
子どもっぽいところは相変わらずで、俺の手を咥えて味まで確かめている陸に笑う。
「こら、くすぐったいだろー」
「どないすんねん、亮雅。嫁はんが陸に取られるで〜」
「年の差考えろ。さすがに俺もそれくらいでゴタゴタ言うかよ」
「分からへんで? 陸は確信犯やろ、見てみこの顔」
振り返った今泉さんと目が合うと、陸はパチパチと瞬きする。
この可愛さは罪でしかない。
陸は誠くんをどう思っているのだろう。
ふと気になった。
「しかしまぁ……優斗は女みたいに綺麗なやっちゃな。実は貧乳女子やろ」
「高速の上で車を飛び出たらどうなりますかね?」
「怖っ! 真顔でいうなや! ジョークやん、ジョーク」
「女じゃないですし、綺麗でもないです」
女みたいだと言われるのは一番苦手だ。
俺自身、女性が苦手なのに。
「こない可愛い子やったらノンケ男でも狙っとるやろ。亮雅も罪やなぁ……ヘタしたら刺されんで」
「付き合うのに一々他人の許可いらねえだろ。それに職場では数人しか言ってねえよ」
他人の目線を気にする俺にとって、亮雅さんの考え方は本当に救われる。
動機が評価や見栄のためじゃないのが伝わってきて嬉しい。
春真っ最中のいまはどこも観光客が多い。
駐車場で降りてテーマパークの入口までやってくると、その大きさを初めて知る。
「かいじゅういる!」
「ジェットコースターもあるでえ。今日は遊び放題や!」
「あそびほだいやっ」
こんなところに来たのは何年ぶりだろう。
地域密着型の小さな遊園地を想像していたが、倍以上ある。
水上のジェットコースターにバイキング、キャラクターのライダーコースターなど多様だ。
「陸、最初はどれに乗りたいんだ?」
「んとね、んとねー」
渡された地図を見ながら陸は迷っている。
できれば、おばけ屋敷以外で。
しかもよく見れば、おばけ屋敷なんてものじゃない。
なんだ『zombie blood』って。
絶対やばいだろ、それ。
「おばけのウチならあるで、ここに」
「!」
「あ、おばけのおうち! これいきたい!」
死んだ。俺の記憶はここで消えた。
ということにしてほしい。
陸はおばけ屋敷が平気なのか、ワクワクしているのが目に見えて分かる。
背筋に感じる寒気と心臓の鼓動。
大人の男が、子どもの前で「怖いから無理」と言えるはずはない。
というか別に怖いわけじゃない。
生理的に無理なだけで。
「ほな行くで〜っ」
「いくでえっ」
「……優斗? 大丈夫か」
「ッ!! だ、大丈夫です。あの、ゾンビって……これ、ゾンビが出てくるんですか」
亮雅さんの後ろにピタッとついていく。
だってゾンビといえば人肉を食べるアレだよな……?
「なんだお前、怖いのか。ゾンビやらキモい虫が出てくんだってよ」
「へッ!? こ、怖くはないです。けど……虫って……っ」
さすが親子で、亮雅さんも全く怯える様子がない。
今泉さんは怖いものが好きという感じで恐怖心を楽しんでいる。
いよいよ入口まで来たとき、誓約書なるものを書かされた。
どうやら本格的にグロテスク要素があるらしく、小学生以下は立ち入り禁止にされている。
おかしな陸は「おもしろそぉ!」と言っているし、亮雅さんも今泉さんもノリ気で、唯一俺だけが死の覚悟をしていた。
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