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❖番外編❖そっくりさん(克彦side)
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自分が間違っていたのだと気づいてから女遊びをやめた。
優斗が毛嫌いしていたタバコの量も減らし、ゲームセンターには寄らなくなった。
「辞めるゥっ?」
「……はい、お世話になりました。今日で、退職させてください」
「ハッ、最後まで使えねえクズだったな。せいぜい幸せになぁ〜。へへへ」
そこにいるだけで他の人間から評価される電機通信を依願退職した。
なんの後悔もない。
ここにいた理由は自分が天才だと、賢いんだと言ってほしかっただけだ。
それ以外なにもない。
「克彦、大丈夫?」
いつものバス停、ベンチに腰かけて項垂れているところに声をかけられた。
それは遊び呆けた時期にキャバクラで出会った厚井まどかだった。
「……なんだよ、お前かよ」
「お前かよなんてひどいなぁ。どうしたの、失恋したって顔して」
「っ…………うるせえな」
この俺が泣くとか、頭が湧いているとしか思えない。
だから耐えた。
涙はもう流したくない。
「何かあったの」
「仕事、やめてきた」
「……そっか。よかった」
「は?」
「克彦はさ……いつもヘラヘラしてたけど、しんどそうだったから。自分を殺して働いて、罵倒されて……でも必死に働いて。そんなに苦しめなくてもいいんだよって、ずっと思ってた」
「…………」
泣きたくはなかった。
悪いのは全て俺だ。
だが、まどかの言葉にボロボロと涙が溢れだして止まらない。
初めて知った。
俺は天才でもなんでもない、平凡な23歳なのだと。
「頑張ったね……偉いよ」
「うっせえよっ……何歳だと思ってんだ」
「へへ、今度克彦の家に連れてってよ。ご飯作ってあげるから」
まどかは俺よりも泣いていた。
俺もアホみたいに涙を流す。
すべて忘れたかったんだ。
まどかは実質、初めての彼女だ。
今までセフレのような彼女しか作っていなかったから、恋愛的な感情を抱いたのは初めてで。
「……克彦、久しぶり。彼女は一緒じゃないんだな」
4月、久々に優斗と公園で会った。
声をかけるか迷ったが、どうしても喋りたかった。
優斗と話すようになって数ヶ月、また笑顔を見せるようになっている。
「金魚のフンじゃねえんだ。四六時中いるわけないだろ? それよりあのガキ、小学生になったのな」
「ああ。克彦に会いたがってたぞ」
「…………俺はガキが好きじゃない」
「嬉しいくせに」
「うっせえ、生意気だぞ」
少し生意気になった優斗はやっぱり綺麗で、とても弟とは思えない。
まどかにはすでに過去のことは話しているが、今でも優斗が好きだと思う。
そこには壁があり、近いけれど決して掴めはしない。
兄弟という時点でせき止められ、優斗が望んでいないという事実で完全に閉ざされた。
「おんなじカオぉ」
「陸ー、全然似てないから」
「はぁ? そこをお前が否定すんな」
「いたっ」
「たたくのダメぇ! いたいの!」
「ゔ……」
そして最大の敵は、松本とその息子。
でももう奪い返そうなどとは思っていない。
優斗の本当の幸せは俺といることではない、そう気づいたからだ。
傍にいられるのは、俺ではない。
「ぶぁぁかっ」
「"バ"だよ、"バ"! ぶぁ、じゃねえ」
「ばかばかっ」
「んだとコラ」
「悪い、克彦。これからスーパーに寄らなきゃいけないんだ」
まるで嫁のようなことを言う。
胸のうちはモヤモヤとして松本が羨ましく思う。
目をそらして髪をかいた。
俺は優斗を壊した、だからこの先もずっと悪者でいい。
好かれようとはしない。絶対に。
「……尻軽ビッチ」
「は、はァ!? なんでだよ」
優斗は"俺だけ"だったのに。
あれも嘘じゃないか、結局。
俺に近くで見守る権利はない、だからチビに守れと託した。
下僕の意味も理解していない子どもだが、優斗を大切に思っているのだけは分かった。
この日を最後に会わないでいようと決心していたが、誕生日の前日に優斗から電話がきた。
『明日、家に行きたい』と。
本当に学習しないバカだ…………俺は。
「誕生日、おめでとう」
包装されたプレゼントを渡され、キスしたいと思った。
強く抱きしめて、もう自分だけのものにしたい。
「……甘ぇな」
ようやく絞り出したのは素直とはいえないセリフ。
その後もいかに優斗が阿呆なのか教えてやった。
自分に言い聞かせるように冷たく。
好きだ。
少なくとも、人生のなかで誰よりも大切な存在。
「かしゃん、おサイフかっこいいね」
「……」
一生の宝物ができてしまった。
優斗がプレゼントしてきた財布、陸からのブレスレット。
こんなクズでも神は見捨てなかったらしい。
いっそ要らないと跳ね返せばいいものを、俺にはできなかった。
「……ありがと」
「は?」
「また話せてよかった」
俺がトラウマを植え付けたのに、怖い思いをさせてきたのに、優斗はまた笑顔を見せた。
はやく帰れと追い返して去っていく2人の背を眺める。
その姿はもう親子そのもので、また俺の頬に雫が零れた。
-END-
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