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「悪い、用事があるから出てくる」
自宅に戻ってすぐ亮雅さんはそう言って出てしまった。
なんでもないような返事をした割に寂しさは募る。ソファに寝そべり買ったばかりのクッションを抱いた。
仕事先からなのか誰かと電話していた。
誰と電話していたんだろう。
傍にいてほしかった。
そう思っている自分がバカのように感じる。
亮雅さんにも事情があってずっと一緒にいられるはずがないのに、溢れてくるのはいつも嫉妬心や寂しさだ。
____ゲイは気持ち悪い。
忘れてしまいたい。
親のせいで子どもは馬鹿になる。
育て方が間違っていたから、俺はゲイになったのか。
井口さんや母の言葉がフラッシュバックして、猛烈な吐き気を覚えた。
「っ……」
ダメだ、考えるな。
誰かが悪いんじゃない、俺のせいじゃない。
絹井さんが教えてくれたように言い聞かせてみるが、不快感は褪せることなく鼓動が加速していく。
まだ小学生の陸に「好きだと言ってはいけない」なんて言い聞かせられない。
でも優子ちゃんは?
あの子は陸の言葉に傷ついているし、親にも泣きつくほどだ。
なにもしなければ今度は陸が傷つくことになる。
怖くなってきた。
俺は大きなイジメを経験したことはないが、意識的にクラスメイトから避けられる苦痛は知っている。
陸までそんな目に遭ったら……
「いや、だ……」
純粋で優しい陸が俺と同じ目に遭う未来であってほしくない。
誠くんのことも。2人がたとえ両想いだとしても、俺はとても賛同できないかもしれない。
ゲイであることは悪いことだ。
そう教えられた呪縛が頭から離れない限り。
絶望したのは、帰宅した亮雅さんからまた"あの香り"がしたことだった。
「ただいま」
「っ、あの……」
「ん?」
「…………いえ、なんでも」
釣り場で会った女性がつけていた香水と似ている。
偶然、なのか……?
亮雅さんがその女性と会っている確信がないからなにも言えない。
それにさっきの後で浮気なんてしているはずないだろう。
突然、涙が溢れそうになって顔を隠した。
情緒不安定すぎる。
亮雅さんは俺を束縛しないし、いつも紳士のように優しい。だから絶対……
「スペアリブなんて何年ぶりだ?」
「……食べたこと、ありません」
「相変わらず世間知らずだなぁ」
「あはは……」
笑顔が引きつっていたらどうしよう。
うまく笑えなかった気がする。
目線をそらすだけでジワっと目頭に雫ができる。
キッチンに立つ亮雅さんにバレないよう適当なことを言って寝室に行った。
男のくせに、どうして泣いてばかりなんだよ。
自己嫌悪してベッドに腰かける。
やっぱり甘えすぎなんだろうか、亮雅さんの優しさに。
イラ立ちを覚えて頭を抱えた。
やっと家族のようになれてきたのに、俺のせいで……
「くそ……っ」
「優斗?」
「ッ!!」
2階に上がってくる足音に気づかなかった。
途端にグルグルと回るような目眩に襲われ、手足から震えを感じ始めた。
「おい、どうしたんだ」
「触らないでください!」
途端に怒鳴ってしまう。
もしものことを思うたびに怖くなって、このまま離れた方がいいのかとあらぬ発想まで湧いてきた。
「っ、すみません……俺……」
「優斗」
亮雅さんの手が髪に触れそうになり、反射で目をつぶった。
なにも降ってこなくて見上げてみれば悲しげな目で見下ろされる。
「ごめ……んなさい……ごめんなさい……っ」
苦しくなる呼吸を整えようとするほど、分からなくなった。
亮雅さんに触られるのも怖い。
もうとっくに飽きられていたらと思うと、恐ろしくて目も開けられなくなる。
「……俺が信用できないか?」
「っ」
「まだ俺が優斗を見捨てると思ってんの」
若干だが、声色に怒気を感じてビクッとする。
怒ってる……
「ぁ……いや……」
まただ。亮雅さんに叱られると途端に萎縮する。
どれだけ堂々としようとしても声が詰まり、喉が締め付けられていく。
怖い……
過去の嫌な記憶が一気に脳を駆け巡った。
俺が信じられないから亮雅さんは怒っている、また殴られる。
「おい」
「い、やっ……はッ……ごめん、なさッ……」
「おい優斗っ」
また責められる。
また俺は価値がないと。
「優斗!」
「ッ、はぁー……は、ぇ……」
「……落ち着け。そんな構えなくても殴るわけないだろ」
「……ハッ……ふ、ぐ……」
呼吸が苦しくて袖を噛んだ。
「優斗、お前の彼氏は誰だ」
「…………え? 亮雅、さんです……」
まっすぐ見下ろされて呆然としていると、亮雅さんは不愉快そうに眉根を寄せた。
「優斗にとっての彼氏ってなんだ。俺はそんなに頼りがいないか」
「違っ……」
「違わないだろ。年上だろうと俺にも感情があるんだ、お前はいつも俺を信じるより先に逃げる……本心では自分さえ傷つかなければいいと思ってんだろ」
「っ」
鋭くなった視線に、体が硬直した。
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