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❖転落
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『優斗ー! 行くぞ、学校』
晴れた空は嫌いだった。
まるで傍観者のように遠くから俺を見ているだけの晴れ空。
誰かが『青い空が人を明るくさせる』と言っていたが、そんなのは迷信だ。
『頬、また叩かれたのか』
『……うん』
『優斗はちゃんと頑張ってるよ。俺が知ってるし、だから一緒に行こう』
『…………う、ん』
頑張るってなんだろう。
俺が頑張ってる? ちゃんとしてる?
それならどうして、俺は"今でも"苦しいんだろう。
どうして……父さんはいつだって助けてくれなかったんだ。
いつも、知らないふりをして。
「はぴはぴ〜、ばぁすでー。ふーっ」
「…………ん……」
なぜだか心地よさを感じて目を覚ますと、隣で横になった陸が絵本を読んでいた。
エアコンの風が癒しになっていたようだ。
『ハッピーバースデー陸』と書かれたケーキが絵本を飛び出している。
カーテンから差し込む日に目を細めた。
……そういえば今日は、陸の誕生日か。
「ぱちぱちぱち〜。陸しゃん、6才になりましたぁ。お友だちもみんな、おいわいしてくれるっ」
「……」
誕生日……お祝い。
友達のいなかった俺には誕生日を祝ってくれる人も克彦だけだった。
両親は俺の誕生日だけ忘れて、『おめでとう』と言ってくれたのもいつだったか覚えてない。
…………いい、な。
陸には亮雅さんがいる。
実父からサプライズでもらった誕生日プレゼントを、陸は嬉しそうに眺めていた。
羨ましかった。
陸のことが、どうしても羨ましく見える。
俺は勉強も運動もできなくて、結局誰にも愛してはもらえなかったのに。
「……っ……」
目頭が熱くなって、まぶたを手で覆った。
おめでとうと言ってあげないと。
陸に、6歳の誕生日を。
でも声が出てこない。
どうして陸は愛してもらえるんだろうと、胸の奥が苦しくなっていく。
ダメだ。
そんなの、考えたらいけないだろ。
これじゃあまるで、あの人と____
「ゆしゃん、おきたっ」
「!」
突然の声にビクッと驚き、薄く開けた隙間から陸を見やる。
「ゆうしゃん〜、ケーキありがとっ」
「…………え?」
「りょしゃんがね、ゆしゃんが買ってくれたって。ケーキ、おいしかったぁ」
「……」
「ゆしゃん大好きっ」
無邪気に腕の中へ潜り込んでくる陸に言葉が出なかった。
俺は優しい人間じゃないんだよ。
陸が思ってるほど、いい"お父さん"じゃない。
それなのにどうして気づかないんだ。
「ふふふ〜、サメしゃんのこうげきぃ。ぶわ」
「なに、してんの……」
「ゆしゃんのケーキもれいぞうこあるよっ」
「……あれは陸にあげたんだから、俺はいいよ」
「やだぁ。ゆしゃんもたべるの」
「なんで」
「たんじょうびのケーキは大好きな人とたべるって、りょしゃんが言ったもん。だから陸のたんじょうびは、ゆしゃんとりょしゃんもケーキたべる!」
「…………」
どうして、そんな真っ直ぐな目を向けられるんだろう。
子どもだからって。
なにも知らないからって。
どうして。
「っ……陸ぅ……」
ギュッと強く抱きしめると、陸はバタバタと手を動かした。
「あついぃっ、からあげなる!」
「なん、なんだよ本当……ははは」
「ゆしゃん、泣いてる」
「……なんでもないよ。誕生日おめでとう、陸」
「ふへへ〜。ゆしゃんのてて好きぃ」
「はいはい」
勘違いしていた。
そうだ、愛されていないわけない。
昔はそうだったかもしれないが、今は亮雅さんと陸がいる。
ありのままの俺を愛してくれる人が、こんなにも近くにいるじゃないか。
「なでなで」
「……ばーか、子どもが親をなぐさめないの」
「だって陸もなでなでされたらうれしいもん。ゆしゃんも泣いたらなでなでする」
「……そっか」
これじゃあ、どっちがお父さんだか分からないな……
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