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❖真実
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「あの……急になにを、言ってるんですか?」
意味が分からなかった。
空いた口が塞がらない状態でようやく言葉を紡いだが、今泉さんの困惑した表情にも納得がいかない。
「定期的に会っていたのよ、あの人も合意の上でね」
「そんなの……信用できません。いきなりなんなんですか。今泉さんと共通の知り合いだってことも、俺には理解ができないんですが」
信じたくなかった。
亮雅さんは浮気をしてない。
だって俺のことをあんなに大切にしてくれていたじゃないか。
「そらいきなりすぎやし、優斗も信用できへんよな……オレとユカリちゃんは娘の病院で出会うた仲やねん。この姉ちゃんは優斗が亮雅と付き合うてることを知らんかった」
「……だから、なんですか」
「あなたには悪いことをしたと思ってるわ。でも知らなかったもの。それに……あの男は最低よ。自分から迫ってきたのに私が浮気のことを仄めかしたら髪を掴んできたのよ」
「は……、?」
俺はきっとひどい顔をしている。
見なくてもそうだろうと確信した。
この女性がなにを言っているのか、さっぱり分からなかったからだ。
亮雅さんが、浮気?
自分から迫った?
女性の髪を……掴んだ?
あり得ない。
そんなはずないだろう。
どれだけ自分に自信がなくても、あの亮雅さんが女性に手を出すとは信じられない。
「亮雅さんを悪者にして、なにが楽しいんですか? あの人があなたに擦り寄る義理もないし、自分の都合に乗らないからって手を上げるわけありません」
「……可哀想なくらい、あの男にすり込まれてるのね。それじゃあ、これを聴いても同じことが言えるかしら?」
「はい、?」
たしか久本という名前の女がポケットからスマホを取り出した。
画面には『voice recorder』の文字とマイクのイラスト。
そして01と書かれたファイルを押した瞬間、ザザっとノイズ音が聞こえてきた。
『……よ』
『ちょっと、お願いだから勘弁してよ』
『いいだろ、少しくらい。あんたの体つき好きなんだよな』
____え?
この、声って……
『もうっ、いい加減にして。あなた浮気してるくせに』
『は? どこ情報だよ』
『男と付き合ってるでしょ、あなた。知ってるのよ、私に隠そうとしても無理だから。本当に無理無理、気持ち悪い』
『っ……この女! こっちが下手に出てれば、っ』
『痛たッ、やめてよ!』
心臓が破裂しそうだった。
少し音質が悪いレコーダーだが、男の声は間違いなく亮雅さんのものだ。
え? え……? どう、なってるんだ。
頭が追いつかない。
そのとき脳裏に蘇った香水の匂いに、背筋がゾワッと逆毛立つ。
亮雅さんが…………本当に、?
「……どう、これはあなたの彼氏の声で間違いないでしょう。私は嘘をついてないんだもの」
「っ、あり得ない……そんな、はずは……!」
だって、陸がいるのに?
いつか絶対に結婚しようって……
言った、はずだろ……?
「優斗……オレも腹立ってしゃあないねん。あいつはええやつって信じとった。せやけど、結局これが現実や」
「え、だって、信じられなくないですか……? 亮雅さんには、陸がいるんですよ……」
「だから言ったじゃない。あの男は最低だって」
体の震えが起こり始めると、まるで自分が自分じゃないようだった。
涙は一切流れず、代わりに乾いた笑いが口から漏れ出す。
それじゃあ亮雅さんの笑顔や優しさは、一体なんだったんだろう。
俺の頭をなでてくれた優しい手の温もりも、怖く感じた。
「っ、違う……そんなの」
「優斗、落ち着け。一旦ここは離れるで。悪いけどユカリちゃん、先に行くわ」
「ええ……」
今泉さんに肩を支えられた俺は生気の抜けた殻だった。
なにを信じていいのか分からない。
怖い。
人が怖い。
亮雅さんが……怖い。
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