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「いらっしゃい、上がって上がって」
久しぶりに家族が揃ったことが嬉しいのか、父はご機嫌で迎えてくれた。
キャンプ場で捻った足首の痛みは消えたが痕はまだ残っていて、靴を脱ぐときに克彦に気づかれた。
「足、どうした」
「あ……大丈夫、捻っただけだし」
「どんくせ」
「っ」
なんだこいつ、ムカつく。
ケッ、と小馬鹿するように笑う克彦の背中を蹴りたくなったが俺も大人だ。
ここは堪えて部屋に上がる。
「2人とも、随分とオシャレになったよなぁ。昔は髪も服も無頓着だったのに」
「ま、優斗はな」
「……。父さん、これ差し入れ。よかったら食べて」
「え? わざわざ買ってきてくれたのか、ありがとう」
頭をなでられて赤面する。
やっぱりいくつになっても、父さんになでられるのは嬉しいな……
「親父、写真なんか飾んなよ。恥ずかしい」
「いいじゃないか。最近はもう、家族で写真撮ることないだろ? 結構好きなんだよ、それ」
玄関にある家族写真は、友人に言って飾らせてもらっているようだ。
俺と克彦、父と母が並んだ昔の写真。
こんなものをずっと持ってくれていたのも、俺は知らなかった。
「優斗はこの頃から顔立ちが変わらないよな。はは、でも少しシュッとしたか」
「女みてぇな顔してるよな」
「してないし。だいたい、克彦だって同じような顔だろ」
「男らしさってもんが違うんだよ。お前はナヨナヨしてるし人間に甘すぎる。皆が皆、優しい世界じゃねーんだから」
馬鹿にしているように聞こえて、実は俺を心配してくれているように思う。
亮雅さんのことも、疑いを持たれたくはないが本心から気にかけてくれていた。
優しい克彦は、なんだか気持ち悪い。
「克彦はもっと優斗に優しくなれよ〜。父さん知ってるぞ? いつも優斗と一緒に寝ていただろう」
「っ、何年前の話だ。あれは優斗が怖い怖いうるせえから一緒に寝てやってたんだよ」
間違ってはない。
でも、俺が「一緒に寝たい」と言わなくてもベッドへ呼んできたことはすっかり忘れているようだ。
まったく、都合のいいやつ……
「優斗は怖がりだったもんな。本当は気にかけてやりたかったけど、あまり裕福じゃなかったんだ。ごめんな」
「……もういいよ、気にしてない」
父がどれだけ仕事に精を入れていたのか、亮雅さんを見ていればよく分かる。
俺の知らないところでたくさん働いてくれていたんだ。
今さらそんなことを知るなんて、未熟な自分に笑えてくるほど。
「なんだこれ、うめえ」
「……」
「ほら優斗、口開けろ」
好き放題の克彦が言う通りに口を開けると、甘いブルーベリーの味が口内に広がった。
ヨーグルトの柔らかさとタルトのサクッとした絶妙な硬さがたまらなく美味しい。
「ん、おいしい」
「……」
克彦にジッとこちらを凝視されて気恥ずかしくなり、手で視界を隠した。
お互い別の道を選んだものの一時期は関係を持っていた。
その事実は気まずさを加速させる。
「優斗がパートナーを持ったことは純粋に嬉しかったけど、克彦がまさか婚約者を持つなんて本当に驚いたよ。お前は小さい頃から優斗が大好きだったから」
「うっせえ。観察してんなよ」
「ははは」
「こいつは俺といるより、あの男といる方が向いてる」
その声に後悔が混じっている気がして、克彦の方を一瞥した。
「こっち見んな」
「っ、ちょっと……トイレ」
はたから見たら俺と克彦の関係は異常だった。
男同士なうえに、血の繋がった兄弟。
それでも、友達ができなくて人が怖かった俺にとっては克彦が唯一の拠り所で。
きっと本当は、貴也よりも。
意味もなく洗面所で手を洗い、ふぅっと息を吐いた。
2人のいる部屋に戻ろうとドアノブに手をかけたとき、ふと足が止まる。
「あんなに冷たくしなくてもいいじゃないか。いくらなんでも優斗が傷つくだろう?」
「んなことしたら、あいつが余計に責任感じんだよ。俺には優斗を傍に置く資格なんかねえし、嫌なやつの方が離れやすいだろ」
「ふっ、未練たらたらじゃないか。本当に優斗が可愛くて仕方ないんだな」
「…………そうだな。あいつは確かに可愛い。誰よりも可愛い弟だよ」
「……」
無意識になにかが溢れそうになって、天井を見上げた。
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