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迷子のアンデッド①
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この頃の休日はドストミウルと過ごす事が多い。当然だ、魔王に統治されつつある世界ではドストミウルの仕事なんて楽なもんで、毎日が休日みたいなものだから。
そして、暇な王様は休日となれば俺と一緒に居たがる。やかましいけど、まあ、嫌じゃない。
今日は近くの森を散歩する事にした。
最近は人間もほとんど近寄らないし、夜だとドストミウルの支配下のアンデッドも多い。俺からしたら安全そのものだ。
闇に沈む広いい森を二人でうろつく。
くだらない話をしながら、夜行性の動物を見つけたり、 植物なんかを見たりしている。とんだ平和ボケな時間だ。
しばらく歩いてから、川が流れる岩場の近くに座って少し話し込んだ。
「へえー、一つ目族って人間と協力してた時代もあるんだね。ずっと敵対してんのかと思ってた。」
「短い期間さ、根本的に彼らは他種族をよく思わない習性がある。自種族が何より優れていると思い込んでいるのでね。」
「今は魔王側に付いてるってことは、結局は人間が嫌いなんでしょ?」
「彼らは人間と協力した事で余計に蟠りを深めたのだ。数百年も前の話だが、今の王都には一つ目族と人間の血塗られた歴史が埋まっている。既に王族すら覚えていないだろうがね。」
さすが何百年とこの世界にいるアンデッド様の話は興味深い。俺は割と歴史的な話は好きなほうなので、暇があれば人間からは聞けないような昔話を教えて貰っている。嘘か本当かは知らないけど、興味深い話ではある。
「人間ってさ、嫌な奴はどこまでも性根腐ってるからね。みんな俺みたいに良い奴だったら良いのに!」
「...」
ドストミウルはこちらを見たまま急に止まるように黙った。
「え、そこはツッコミ入れていい冗談なんだけ...」
そう言いかけた俺の前に指を縦にして近づけた。そのままドストミウルは辺りを警戒したように見回し始める。
どうやら何かの気配を察知したらしい。
俺も体を動かさないようにしながら視線だけで辺りを見渡した。
「向こうの茂みだ。」
ドストミウルは反対の手で、背後の茂みを指さした。
「なに?人間?動物じゃないの?」
俺は小声でドストミウルに聞いたが、ドストミウルも分からないようで何も答えなかった。
ドストミウルはゆっくりと宙に浮くとその茂みの方へと近づいた。何がいたとしてドストミウルに怖いもの無しだろう。
俺はドストミウルから少し距離を置いてその後をついて行った。
少し進んだところでドストミウルが茂みのある地面を見つめていた。何となく警戒感が薄れていたようなので俺も横に近寄って、その場所を覗き込んだ。
そこには人が倒れ込んでいた。
しかも小さい、女の子みたいだった。
周りには他に人間の姿も気配も無い。
俺は心配になってその少女に駆け寄った。
妹がいた分、子供に関してはどうも感情的になってしまう。迷子か、遭難したのか、それとも親に捨てられた?
「なっ、大丈夫かよお前!どうしたんだ、子供がこんな所に一人で居るなんて...」
怪我は無いかと少女を抱き起こそうとした瞬間、俺の背筋に寒気が走った。
ぐったりとした彼女の体はこの夜の闇ほど冷たい。
「なっ、死んで...」
手遅れだったのだろうかと、虚無感が湧き始めた俺の腕をドストミウルは引いた。
「カノル、一度離れなさい。危険かもしれない。」
「危険って何が?可哀想だろ、子供がこんな所で野垂れ死にそうになってるんだぞ!も、もしかしたら手当すればまだ助かるかもしれないし...」
ドストミウルは俺の腕を無理やり引っ張ると少女から引き剥がした。
「馬鹿やろう!小さい子供一人、助けようって心もないのかよこの化けもの!」
思い切り睨みつけてそう怒り散らす俺に対し、ドストミウルは落ち着いたままこちらを見つめていた。
「落ち着きなさいカノル。」
「誰が落ち着いてられるかっての!早くこの手を離しやがれ!クズ骸骨!!」
「そこの娘はアンデッドだ。」
「...」
焦っていた思考回路は一瞬その言葉を飲み込めずに、動きを停止した。
思わずぽかんとした顔でドストミウルを見つめる。
ドストミウルは何も言わずに冷たく横たわる少女を指さした。
冷えきったはずの少女の手がぴくりと動き出したかと思うと、うつ伏せになって見えなかった顔を勢いよく持ち上げてこちらを見た。
少し泥のついた顔、まつ毛の多い目のぱっちりとした少女は不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
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