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歯車は抜け落ちている
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時々どうしようもなく体調が悪いことがある。
耳鳴りがすごくて、頭が重くて、体が動かない。吐き気と息苦しさが相まって、楽しいことなんかひとつも考えられなくて、いっそ死んでしまいたいと言う思いが何度も頭を巡る。
そうなって俺が動けない時、ドストミウルはめちゃくちゃ心配そうにしている。
俺だって心細くなるから、こんな時くらいは正直な気持ちを吐き出す。
布団から手を伸ばして、ドストミウルの枝みたいな指先を掴む。
作れない笑顔を作ろうと顔を引き攣らせながら、ひとつの目で見つめるのだ。
「すげえ、しんどいの」
「そのようだ。」
ドストミウルはすっと俺の横の布団に潜って寄り添って来た。動きでふわっと沸き起こる風で肩が凍えるほど寒かった。
「風邪かな?寝不足?それとも精神病...どれだと思う?」
いつもと違うか細い声でしゃべる恋人の髪をドストミウルは細く硬い指で優しく撫でた。
「どれだろうと君を犯す病は憎らしい。どうしたら楽になるだろうか。ドクターにもっと人間の医学を学ばせるべきだな。」
こうやって話していると、頬が緩み表情が自然に出せるようになる。
「ここに居て」
カノルはドストミウルの胸の辺りの骨を掴んだ。
「もちろんだ。君が望むならいつまでも。」
ドストミウルが距離を詰めるとカノルはあばら骨に指先をかけたまま頬を寄せた。
「アンタのそういう歯が痒くなるような台詞ってどこから得てくるの?昔からの知識?舞台劇?それとも官能小説?」
カノルは少しだけ笑った。
「さあ、何だろうな。」
「でも俺、アンタが敵対してる相手といる時の背筋が凍るようなキツい喋り方も好きだよ。」
「私の醜い部分だ。」
「アンタは自分が宝石のつもりでいるの?醜い部分の無いやつなんて居ないよ。」
カノルは目をつぶって痛みに耐えながら話をしていた。
「君は何をしても美しい。少なくとも私にはそう見える。」
「俺から見えるアンタもそんな感じ。わかる?」
カノルは片目をあけて声の方を見た。
ドストミウルは胸元に寄り添う恋人を見た。
「おかしいな、君は。」
「うん、そうなの。でも俺を好きなアンタもおかしいの、自覚して。」
カノルは掠れたような声でそう言った。
「苦しいなら休みなさい。今は話し相手をする必要は無い。」
「うん。そうだね。ここに居てね、ドストミウル。ずっと、ずっとね。お願い、お願い...」
カノルはすすり泣き始めた。
ドストミウルは細長い両手でカノルを包むように囲った。
時々こういう事があるカノルをドストミウルはただじっと寄り添って受け入れる。何も恐れることは無いと言い聞かせる。
きっと一度離れたあの時の事が彼の心の傷になっている。それなら傷が癒えるまであきれるほどこうしていればいい。君の短い命に少しでも安息を与えられればいい。
カノルは苦悶の表情を滲ませたまま寝息をたてはじめるも、ドストミウルはひとつも動かなかった。
世界の規律から外れた二人は、ここで歯車を噛み合わせればいいのだ。
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