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友達訪問!②
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うるさいおじさん達の部屋を出て2人は廊下を歩き始めた。
「今日はチビちゃんはいないのね、ちょっと残念だわ。」
「ビアリーの事?」
そうか、この間のパーティーでアーテリーはビアリーと会っていたっけ。俺は最後の方しか一緒にいなかったけど、俺のいない間に仲良くなっていたりしたのだろうか。
「うん、かわいい子よね。野良だったとは思えない。しっかりしてるし、芯の強い子よね。きっと立派に成長するわ。」
「ま、俺の娘だしね。」
カノルはにやにやと押さえられない親としての喜びをを顔ににじませていた。
「さ、どこから行きましょっか?」
アーテリーはすっと立ち止まった。
「どこがあるんでしょう。」
んー、とアーテリーは唇に人差し指を当てて考え始めた。
「そうね、ヴァンパイアの歴史を彩る宝物庫とか、パパこだわりのお庭を散歩するとか、昔ながらの棺桶がある部屋もあるし、血液採取用の特別厨房…はやめた方がいいわね。」
「血液ってその辺いって人間吸ってくるんじゃないの?」
「下位のもの達はね。でもパパはそういうの、はしたないとか面倒だとか言ってしないの。昔はしてたらしいんどけどね。だから狩り担当の人たちに頼んで採取して、ちょっと味にアレンジ加えたりしてるわ。」
まるでフルーツの話でもしているようだがそうではない所が恐ろしい。まあ俺が喰われる訳じゃないので特別びくびくする訳じゃないんだけど。
「イフって普通に人間の食い物とかも食うもんな。」
「私達も食べるわよ。でも血の方が格段に力が湧くし能力も上がるの。だから戦闘の時は狩りながら戦っちゃう!」
成る程一石二鳥ってやつか。ヴァンパイアの食事事情も理解できた。
ドストミウル邸のアンデッドはほとんどの奴らは飯を食わないから一緒に食卓を囲むみたいなことはできない、でもヴァンパイアは人間と同じものを食べてくれるならそういう事もできるだろうしちょっとだけうらやましいと思った。
それから俺はアーテリーに連れられて、歴代のヴァンパイアの王の肖像画と彫刻のある展示室や、大きなピアノのある音楽室、ゲイルでも入れそうな吹き抜けの大広間なんかを巡らせてもらった。
どこも部屋は綺麗で家具も高級感あふれる金装飾の施されたものやアンティークなものばかり。ドストミウルの屋敷じゃアンティーク通り越して壊れた穴が蜘蛛の隠れ家になっているくらいだ。
「なーんか、普通にめちゃくちゃ凄い豪邸で羨ましくなっちゃう。」
俺は肩を落としながらアーテリーと共に薔薇の咲く庭を歩いていた。
「本当!それならよかった。パパの趣味丸出しだし変に思われなくて安心したわ。」
「バカ言え、俺んちはド級のおんぼろ屋敷だぞ。こっちに就職すれば良かったかな?」
「いつでも歓迎するわよ。でもおじ様もカノルの為に自分の部屋だけは綺麗にしてくれているんでしょ?住みやすいんじゃなくて?」
「ん、そうなの?」
言われてみれば確かに。俺達の部屋だけは窓も割れてないしクモの巣も張ってない。カーテンとかも刷れてはいるが他の部屋みたいにちぎれっぱなしにはなっていない。部屋もマメに掃除されているし、寝具も綺麗だ。主の部屋だからではなく、俺が住みやすくする為だったのか。成る程、ドストミウルの心遣いをここで知ることになるとは思わなかった。
「いいわよね、おじ様に愛されてて。そういうの素敵だと思うわ。」
アーテリーは穏やかに微笑んだ。
俺よりもずっと愛してくれる対象は多そうな彼女に褒められるのは何とも不思議な気分だ。
「アーテリーは彼氏いないの?めちゃくちゃナンパされそうだけど。」
「ナンパはされるわよ、街へ出ればいくらでも。」
さらりとナンパされると言えるとはそれだけ実例があるのだろう、しかもいくらでもと付くくらいだ。彼女の良いところはそれをなんとも思っていない様子な所だ、たぶんなんとも思ってないのだろう。
「街?昼間に出歩けるの?」
「ちょっと大変だけど、出来ないことじゃないわ。昼間は体が重いし、陽に当たるとすっごく痛いし、街では美味しそうな血を目の前に我慢しなきゃだし。でも、色々防御策を講じていけば短時間なら平気よ。」
それは知らなかった。ヴァンパイアもてっきり昼間は寝ているものだと思っていた。そうすると、ヴァンパイアの城の方が我が家よりは昼間は賑やかなのだろうか。
「へぇ、イフも出歩く?」
「パパ?パパはぐっすり寝てるわ。昔の人だから昼間は出掛けるものじゃないって言ってるし。」
どうやらアーテリーの行動も基本的な行動って訳ではなさそうだ。アーテリーの年齢が不詳とはいえ、イフが昔の人と称されるくらいには世代での考え方が違うようだ。
薔薇園の隅にあった時計に目配せするとアーテリーは急に立ち止まってこちらを向いた。
「そろそろ戻ろっか、パパ達のところに。」
「ああ、色々ありがとうな、アーテリー。」
アーテリーは俺の言葉に頷いてから、急に顔を近づけてきた。
「ねえ、最後にカノルの事一つ聞かせて。」
「な、なに?」
「カノルっておじ様の、ドストミウル様の事本当に愛しているの?」
不思議そうな顔をしてアーテリーはこちらを覗き込んできた。
「えと、まあ…本気な事はたしか、かな。」
そんな恥ずかしい質問は普段なら突っぱねているところだが、アーテリーは親切にしてくれたし雑な回答をするのは失礼かなと思った。
「成り行きだっていうのも否定出来ないんだけど、今は色んなことがどうでもよくなるくらい好き、かな。」
カノルはアーテリーから視線を反らし、口元を歪めて少し赤くなっていた。
その表情をみて納得したように頷くとカノルから離れた。
「そう、それならよかったわ。」
アーテリーは満足そうににっこりと微笑んだ。
「アーテリーちゃ~ん!」
ふざけたようなイフの声が聞こえて振り替えると、薔薇のアーチの向こうからイフとドストミウルがこちらに向かってきていた。
「どうどう、吾輩のエクセレントなお城良く見てくれた?羨ましさに喉から手がでたでショ? 」
こちらに近づくなりイフは偉そうに髭を撫でてそういった。
「確かに羨ましい所はたくさんあったな。」
「こっちに引っ越してくるかい?」
「ギャリアーノ!カノルを誑かすのはやめてくれ。」
ドストミウルは焦ったようにそういった。
「あいにく、俺は田舎育ちのちんちくりんなんで、ボロ屋敷がしょうにあってるんだよね。」
カノルがドストミウルの横に移動しながらそういうとドストミウルは胸を撫で下ろしたようだった。
「それはそれは、納得ダ!」
「うるせぇ、少しは否定しやがれ。」
そんな風にいがみ合っているとドストミウルは俺の肩に手を回し引き寄せられた。
「そろそろ帰ろう、カノル。」
「ああ、そうするか。世話んなったねアーテリー。」
カノルが言うとアーテリーは少し近づいてきて手を出した。
「私も新しい友達ができて嬉しいわ、またいつでも遊びに来て。」
「アーテリーも遊びに来ていいよ。つってもぼろ屋敷じゃつまんないだろうけどさ。」
差し出された手を握り返すとカノルも嬉しそうに笑った。
ドストミウルがカノルを抱き抱え、転移魔法を使ってヴァンパイアの領地から姿を消すまでアーテリーは優しく手を振っていた。
無事に帰れた様子を確認するとギャリアーノは人数の減ったガーデンをぐるりと見渡してから、娘をみた。
「どう、何か面白い話ができた?」
「話と言うより、彼自体が面白かったわ。おじ様と一緒にいられる人間なんてもっと理性とか倫理が崩壊しているような人かと思ったけど、そうじゃなかった。ふざけているようで芯は真面目で、心は座っているし、それに…」
「それに?」
「アンデッドの王に本気で恋してる。正常で異常だわ。面白すぎて、人間にしておくのがもったいないくらいね。」
ギャリアーノは娘のその評価を聞き目を閉じて顎を撫でた。
「事実は小説より奇なり…ああ、彼が昔話になる頃にはどう語られるのやら。」
「それは確かに楽しみね。」
ヴァンパイアの王は両肩を引いて背筋をぐっと伸ばす、腕をぐるりと回して体を解してから部屋に戻る道を進み始めた。
「この期に及んで死ぬのが勿体ないと感じるとはね。」
呆れたようにギャリアーノが呟くと二人のヴァンパイアは自らの家へと姿を消した。
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