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熱にうなされて
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熱を出した。
ここ一番でしんどいやつ。
頭がずっと痛くて、血の流れる音が轟音となって耳を塞ぐ、喉は腫れてものは通らないし、身体中がきしんで重い。
ああ、健康な時の体って本当に素晴らしいことなんだと、馬鹿みたいに当たり前の事をなん十回とループして思った。
目をつぶってひたすら自らの体の力を信じ、この苦しいときが一刻も早く過ぎ去るのをひたすら待つ。生きているからこそこんなに辛いのだともがいて、いっそ死んだ方がましという結論を何度も蹴り飛ばした。
ふいに、聞きなれたドアの音がする。
ツカツカと最高級の革靴の底を似つかわしくない速さで鳴らして人の姿をしたバケモノはベッドへと駆け寄った。
「すまない、遅くなった。予想以上に薬が手に入りにくくてね。」
カノルはだるさと布団に埋もれたまま、目だけで返事をした。
ごそごそと鞄をあさって出てきた紙袋を布団の上に出すと、近くにあった水を取りに行こうとその場を離れようとした。
去ろうとする手をカノルは熱に震える手で捕まえた。
「どこもいなかいで。」
干からびたような声に少し困った顔を見せたが、ドストミウルはカノルの目をしっかりと見つめた。
「薬だけは飲みなさい、いいね?」
「あい」
力なくうなずいたカノルを見るとドストミウルはすぐにコップに入れた水を用意し持ってきた。
汗ばんだ背中に手を入れ、引き寄せるようにゆっくりと抱き上げる。
半開きの目を少しこちらに向ける。唇にコップを当てるとすするように少しだけ口に含んだ。
「辛いね。自分で飲めるかい?」
コップを置き小さい粉薬の袋を渡すとカノルは受け取って袋を開けた。
「大人なんでそれくらいできます。頼めば口移しで飲ませてくれるの?」
不貞腐れたようにそういいながらカノルは薬を口に流し込んだ。すかさずに渡されたコップを受け取り水を含む。
「かまわないよ、口移しでもなんでもしよう。」
「じゃ、メロン買ってきて。」
「それはダメだ。遠くまで行かないと手に入らないだろう、その間君を一人にはできない。」
言葉を返さない彼は肩で息をしながら虚空を見ていた。苦しいのだと悟りゆっくりと体を寝かせる。
「…すまない、何もしてやれなくて。」
「めろん」
「わかった。君が治ってから一緒に買いに行こう。」
ドストミウルが困ったように笑うも、カノルは額に手を置いて瞳を閉じた。
「…俺、このまま死ぬかな。」
「ただの風邪だ、じきによくなる。」
カノルは手を少しだけずらして、橙の瞳をこちらに向けた。
「辛いから殺してって言ったら、殺してくれる?」
ドストミウルは少し目を伏せた。
「…」
「いいよ、俺、メロン食べたいし。」
カノルはまた目を閉じると深く呼吸をしているようだった。
自分でも言葉にした、ただの風邪だ。それだというのに、苦しそうな彼の姿を見ていると虚空な筈の胸でもヒビが入るように傷んだ。このまま彼を失ってしまったらどうなるのだろう。何故、人間はこんなにも脆く自分はこんなにも人かからかけ離れているのだろうか。
カノルは自分よりも深刻そうな顔をして眉間にシワを寄せる男を薄目を開けて見つめていた。
「動く保冷剤、暇なら俺の頭冷やして。」
なんとも乱雑な名称をつけられたが二人しかいない部屋でそれが自分だということにはすぐに気がついた。顔をあげるとカノルは自分の横の布団とぽんぽんと叩いてこちらを見ていた。
「体の冷やしすぎはよくない。」
「適度な加減をお願いします。はやく、間抜けな骸骨姿でいいから。」
そういわれドストミウルはすぐにもとの姿に戻ると、言われた通りに布団にはいった。
カノルはすぐにドストミウルの胸骨に額を寄せた。
「かたい」
「そんなこと君が一番よく知っているだろう。」
「うん、これがいいから。」
小さくそういってから今度は頬を寄せてカノルはゆっくり目を閉じた。
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