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はじめてのおともだち2
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風呂から出て、ソファに座るシノの隣に俺も座る。しばらく沈黙が流れ、それに耐えかねたシノが口を開いた。
「今日の練習試合、本当凄かったわ。なんて言うか、体格からして皆油断してたけど、流石ダガーの隊長だなって思ったし」
すっかり練習試合のことを忘れていた俺は、「あぁ…ありがと…」なんてつい曖昧な反応をしてしまった。
「…シキは、俺達と同い年なのになんであんなに強いんだ?あの生徒会長をあんなに軽くいなすなんて、びっくりした」
その真剣な口調に、俺はシノの横顔を見る。シノは目の前にあるテーブルの上のコップを見つめその表情は良いものではなかった。勝手な推測だがその色は『焦り』の色に見える。
「…別に謙遜するつもりは微塵もないけど、俺は強くないよ。この学園にいる奴らの方がよっぽど強い」
俺は素直に思ったことを、言葉にする。きっとシノからしてみればいい気分ではないかもしれない。
「…それを、謙遜と言わないでなんて言うのかな」
棘のある言い方に、違和感を感じる。
憶測にすぎないが、きっとシノは優しく明晰で真面目な人間だ。そんな人間が出会って初日の人間に対して、ここまで自分の強い感情を見せている。それだけこの短時間で俺を信頼してくれたのか。いや、きっとこの手の人間は簡単には自分の手綱を相手に渡さない。
それだけ何かに焦っている…?
「シノは、俺に何て言って欲しいの?」
シノは一瞬表情を強張らせ、俯いた。
自分が発した言葉はきっとシノにとって一番困る言葉だろう。でも、ここで俺が「わかるよ、しんどいよな」なんて薄っぺらい言葉をシノに渡すのは、自分がされても嫌すぎる。
答えのない無言の沈殿は、先程よりは居心地の悪いものではなかった。
「…ごめん、シキ。練習試合を見てなんか焦っちゃっただけなんだ」
そう言ったシノをまっすぐと見つめる。
「俺達は今日会ったばっかりだし、お前が望む言葉なんてあげらんないけどさ、シノの強さを俺は知らないし、シノは俺の弱さを知らない。…もうちょいじっくり考えてから、俺を値踏みしてくんね?」
シノが笑った。
「ふっ…値踏みするつもりはないよ、友達だからね」
その笑顔からは先程までの焦りは感じないが、それでも何かを背負った人間の笑い方をしている。
俺はシノの前へと周り、両手の親指をシノの肩に置いて思い切り下に押した。
「痛い痛い痛いなになになに!!!」
「かっった!!!なんだ、お前の肩!硬すぎかよ!!!!!肩に力入りすぎなんだよ!!抜け!!力を!!」
「はっ、はあっ!?」
痛い痛いと叫ぶイケメンに、ざまあみろと内心言ってやる。その表情からはもう『焦り』も『責任』も感じなくなっていた。
シノの肩を揉むのをやめ、その柔らかそうな髪に触れた。
「お前さ、俺に勝手に期待して、勝手に失望した、みたいな顔すんじゃねえよ。俺は他人様の気持ちなんてわからない。ましてや、会ってそこいらの友人の気持ちなんかな。でも、お前とはこれから仲良くなりたいって思ってるんだよ。だから、焦んなよ。時間はあるんだから」
「……」
「お前が、何に焦ってんのか、何に諦めてんのか、知らねーけど、その肩に入ってる力、抜いてみろよ。わかるぞ、世界の広さが」
俺がずっと大切にしている言葉を、シノに渡していく。
「……世界の広さ?」
同じ言葉を繰り返したシノに、俺はしっかりと頷いた。
「そ。なあ、知ってるか、この世界って広いんだよ、俺達がどう足掻こうと、全てを知り尽くすなんて無理なんだ」
世界の広さに絶望する時も、可能性を感じる時もある。
「だから、さ。もう、ゆーーっくり、これから知っていけばいいんじゃねえ?勉強も、戦い方も、俺の事も、………お前の事も」
言葉を反芻しているのか、目を輝かせながらも机に置かれたマグカップを見つめ続けるシノに、俺は背を向けた。
「じゃ、俺寝るわ。明日から学校行くから、起こしてくんね?」
「あ、あぁ。わかった。」
シノからの強い視線を感じるが、振り返らずに寝室の扉を開けて中に入る。
ふと正気に戻って、罪悪感と恥ずかしさが波のように襲い掛かってくる。扉を静かに閉めて、ベッドに思い切りダイブした。わかってるよ…!説教じみた事言ってゴメンって………!!俺がシノの立場だったら絶対うぜえアイツって思うよ…もう…友達無くしたかも…
深夜の一人反省会が始まった。
「ありがとう」
その聞かせる気のない、小さな小さな声は俺の耳には届かず、その一人反省会は過去の黒歴史暴露大会へと移行される。
夜はまだ、長い。
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