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曼珠沙華4
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────キヨ視点────
どくどくと心臓が音をたてる。
1度下げた頭をあげることが怖い。
…やってしまった。
第2王子とは言え十分位の高いお方に、あんな喋り方をしてしまうなんて。
敬語を使わなかっただけで打首になってもおかしくはないのに、遊女、ましてや花魁有るまじき言葉遣い。
「…ねぇ」
ほら、きた。
「なんでございましょうか。」
「…そんなに畏まらなくてもいいよ、なんか息が詰まっちゃう。お客にそんな思いさせるの、キヨくん。」
大きな手が俺の頭を軽く撫でた。
恐る恐る顔をあげると、鞠を持って困った様に立っているレトルト様がいた。
「…お見苦しい所をお見せしてしまいました、すぐにご案内致しますわ。」
胸を撫で下ろしつつ、ぱぱっと自分のできる範囲で乱れていた着物を整える。
ちらりと鏡を見ると、案の定髪も少し崩れていた。
「ご指名は?」
「へ?」
何かに気を取られていたのか、ぽかんとした顔で俺を見つめる目。
…なんだよ、花魁が目の前にいるって言うのに心ここに在らず、か。
さっきから俺を振り回してばかりで、面白くない。
「ご指名の娘はいらっしゃいますの?」
見た感じ従者は連れてないようだ。
第2王子が1人で真昼間からこんなところに来るのを許すなんて、皇宮はどうやら余程忙しいらしい。
「指名ね、…キヨくんじゃあダメなの?」
…は?俺…?
俺今着物乱れまくってるし紅もさし直さないといけないんだが。
「…わたくし、ですの」
「うん、キヨくんを指名する。」
「…わかりましたわ、ご案内致します。」
菫色の鞠を受け取り、俺は階段を上がる為に背中を向ける。
…どうしたよ、俺の心臓。
いつも通りにやればいいんだ、緊張するな。
相手が高官様から第2王子様に変わっただけだろ。
────レトルト視点────
綺麗な赤と金色の衣がかかった部屋に通される。
「少々お待ち下さいまし」、と言ってあの人は出て行ってしまった。
しん、と部屋が静まり返る。
…ほんとに来てしまった。
文を書き終えた後、気づいたら何かに誘われるようにここに来ていた。
兄様には内緒にしておこう、大笑いされるに違いない。
それよりも、さっきのキヨくんだ。
昨日は目を引くような濃い紅を口にさしていたのにも関わらず、今日は薄い桃色の唇をしていた。
…花魁は毎日指名がある訳でもないのだから、今日はお休みの日だったのかな。
鞠を持っていたのも、誰かと遊んでいたのかもしれない。
そうだとしたら申し訳ないことをしたのではないか。
後で綺麗な着物でも送るのが礼儀かもな。
そんなことを考えながら俺はぐるりと部屋を見回した。
びっくりしたように、麻色の着物の裾が襖の奥に消える。
「…誰かいるのか?」
返事はない。
「…怒らないから出てきなよ、襖の奥の君たち。」
優しくもう一度言うと、襖がからりと開いた。
「すみません、レトルト様!お騒がせしました」
「ごめんなさい!」
2人の少女がちょこんとお辞儀をする。
さっき見えた麻色はこの子達の着物だったのか。
「いいよ、気にしないで。君達もこっちへおいで、最中(もなか)があるよ食べる?」
「最中!あたし達が頂いてよろしいのですか!」
「こら!」
「俺はお昼を食べたばかりだから、お腹が空いてなくてね。食べてもらえる?」
はい、と袋から最中を取り出してふたつに割り、手渡す。
きらきらとした目が嬉しそうに笑った。
「…お待たせ致しましたわ、レトルト様」
少女達が出てきた襖とは逆の襖が開く。
涼やかな声がして、しゃらんと髪飾りの揺れる音がした。
はっと息をのむぐらい綺麗なキヨくんがそこにはいた。
「…綺麗だね、」
言うつもりはなかったのに、気づけば口からそんな言葉がもれていた。
「まぁ嬉しい。…あら、わたくしの禿達がお邪魔していたのですね」
かむろ?…あの少女達のことだろうか。
隣を見ると、最中を口いっぱいに頬張っている少女と目が合う。
「…すみません、あたし達はここで失礼します…ほら、あんたも!」
「最中ご馳走様でした!!」
ばたばたと2人が襖の奥に消えていく。
…なんだったのだろう、キヨくんに怒られるとでも思ったのかな。
「ふふ、あの子達…レトルト様、お許しくださいませ」
「いや、俺がさそったようなものだからね。最中を食べて貰ったんだ」
「最中…幸せものですわね、わたくしの禿は。」
綺麗なキヨくんの姿を毎日見れるのなら確かに幸せかもしれない。
酒を盃に入れる気持ちのいい音が部屋に響く。
「いくつぐらいなの?」
「あの子達は…11、だった気がします。4つの時からここにいると聞いたので、確かそうだったかと」
「へぇ…キヨくんはいくつなの?」
「わたくしは次の春で19になりますわ。」
…てことは今は18、7つも下なのか。
この歳で花魁に上り詰めるのはどれだけ大変だったんだろう、世間がこの少年に注目する意味が分かった気がした。
「わたくしも質問よろしいですか?」
「なぁに」
「レトルト様は婚約者がいる、と聞きましたの。
隣国のお姫様だとか。それは本当ですの?」
世間体に疎そうなキヨくんまで知ってるのか。
…婚約者、ねぇ。
「当たってるよ、父上が決めた人だけれどね」
透明な酒を煽る。
「こんなところに1人で来てもよろしかったのですか、」
「んー気づいたら来てたからな。叱られるかもな。」
…変なお方、とキヨくんが笑う。
長いまつ毛が肌に影を落とす。
ひとつひとつの動作が美しくて、さすがだなと思ってしまった。
「…ここだけの話にして欲しいんだけど、俺はあのお姫様が少し苦手でさ。」
「隣国の?」
「そうそう、婚約相手。合わないというか…ね。」
何を言ってるんだろう、こんな話をするはずじゃなかったのに。
キヨくんだって困ってるだろう。
「…ごめんね、変な話して」
「構いませんわ、…ただ、羨ましいです」
「え?」
「そのお姫様はレトルト様と結ばれる運命にあるのでしょう。全てのおなごの憧れですわ。」
…そんな運命、俺は望んでいないのだけど。
何も返事できないでいると、キヨくんが落ちてきた俺の髪を耳にかけた。
美しい顔が近づいてきて、知らぬ間に鼓動がはやくなる。
「…わたくしがそのお姫様と代わってしまいたいぐらい」
小さく、でもはっきりと聞き取れたその言葉。
驚いてキヨくんの手を掴もうとすると、するりと躱された。
どうせこれも商売文句のひとつなのだろう。
どこかでそう言っている俺がいるのは分かってる、でも。
…この人を俺のものにしたい。
「ねぇキヨく」
「レトルト様、申し訳ないのですけれど、わたくしこれからお仕事がありますの」
「…仕事?」
俺が何を言うか分かっていたのか、キヨくんは言葉を遮った。
仕事…ああ、花魁道中かな。
空も綺麗な橙色に染まってきたところだ。
必死に平静を装って声を出す。
「仕事ならしょうがないよ。お勘定、いくらかな?」
一緒にいられたのは半刻と少し。
それでも花魁であるのには変わらない、高くつくんだろうな。
「今回は頂けません。準備もバタバタしてしまって、挙句の果てに禿達の相手もしてもらいましたもの…あの子たちにあげた最中でちょうどいいぐらいです」
紙幣を掴んで渡そうとしても、キヨくんは断固それを受け取ろうとしない。
俺は諦めて財布に紙幣をしまった。
「じゃあお暇するよ。あの子たちにもよろしくね」
「ありがとうございました」
「…あ、」
「なんです?」
あることを思い出して、俺は後ろを振り向く。
「キヨくんさ、最初そんな言葉づかいじゃなかったよね」
柔らかい笑みを浮かべていたキヨくんの顔が固まる。
「…そうですわね。わたくしはおなごではありませんので…」
「俺にもそうやって話してよ」
「…へ?」
「堅苦しいのは苦手だからさ」
キヨくんは少し悩んだような表情を浮かべた。
…無理な頼みをしてしまったのだろうか。
「…あと1回」
「ん?」
「後もう一度お越しくださいませ。お待ちしておりますわ」
答えの意味が分からずにキヨくんを見つめると、悪戯っぽい笑みが返ってきた。
あと1度来たら考えてくれる、ということなのだろう。
…ずる賢いなあ、この人は。
「いいですよ、また来ます。今度は最中を3つ持って」
小さく笑い声が聞こえて、また甘い香りが鼻を擽った。
「…次は私を指名してくださいまし、レトルト様」
────────────────────
作者より
お客が遊女と一緒に寝れたのは3回目の夜からだったらしいですよ。
…ちなみに、花魁レベルにもなると、一晩で約30万消えていったそうです。
30万…テレビ買えますよ((
どうも!
最近更新遅くてすみません!ずっと寝てました!
寝てたうちに気づけばアクセス数5万いってました、ほんと何事、って感じ。
ありがとうございます
まだまだ先のことになりますが、お気に入りといいねが全200超えたら、リクエスト企画をする予定です!
Rでもなんでも受け付けます!(キヨ受け)
楽しみにしてて貰えたらなーって。
では次回!
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