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「…また彼女できたんか。」
真水の中を歩いているのか、と錯覚するほど冷たい空気を切り裂いて、二人は進む。少しだけ間をおいて、ヒビキが答える。
「うん…。」
からからから、と自転車のタイヤが回る。小さくて、今にも消え入りそうな澄んだ金属音がいやに耳につく。
「…今度は、その、どんな子??」
俺は目を伏せる。…相原から始まり、ヒビキはどんどん色んな女子と付き合い始めた。俺は一々詮索しないし、周囲から情報を集めようともしない。
ただ、無関心というわけではない。
心の片隅でちょっぴり気になっている。ヒビキはどんな子と付き合って、どこまでいったことがあるんだろう。俺の知らないことをたくさん知っているんだろうか。
考える時、何故だかちょっぴりドキドキする。
「…とってもいい子だよ。」
ヒビキの落ち着き払った声音。大人っぽい立ち振る舞い。俺は少しだけ、胸の奥がきゅうっと締め付けられたような錯覚がした。
ずっと隣を歩いていたヒビキが、気づけば横ではなくずっと先に佇んでいるのを目撃してしまったかのような…。
「でも、寿命が残り僅かなんだ。」
唐突に、俺の足が止まる。
先に進んでいたはずの幼馴染がドヤ顔で隣に戻ってきた気がした。
「ヒ、ヒビキ…??」
「だから、彼女を救うためには五千万のツボが必要なんだ。あのツボには、神様のありがたい力が宿っているんだって。」
「ヒビキ、多分それ絶対に設定だ。」
ヒビキは憔悴しきった表情で、握り拳を肩の高さまで掲げる。
「…で、ツボが手に入ったら次は一千万のブレスレットを…。」
「ヒビキッ‼」
気づけば俺は、ヒビキを凍てついた歩道の隅に正座させて、彼の前で仁王立ちになり、説教していた。
「…でも、たっちゃん。オレが養わなければ、彼女は帰らぬ人に…。」
「ツボとブレスレットで救える命なんかあるかッ‼その子とは別れなさいッ‼」
俺の怒号が、冬の綺麗な青空に轟いた…。
高校三年の秋である。屋上で昼飯を食っていた、快晴のあの日。幼馴染の携帯はバイヴで震えてばっかりいるのに、あいつは知らんぷりして焼きそばパンをがつがつと平らげていた。
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