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ICレコーダーを千明さんのカバンに仕掛けた犯人との対峙から数日。
千明さん経由で、その人の退部を知った。
あっけない幕切れだった。
(まあ、もう千明さんにつきまとったりしないと言っていたし……「お仲間」共々、千明さんからは手を引いたと考えてもいいのだろうか?)
警戒は続けていたがこの数日は平和だった。彼女が「お仲間」という言葉に反応し、妙な言葉を残していた件は引っかかっていたが……
とりあえず、途中経過として千明さんに報告してもいいだろう。
『結論から言うと犯人は○○さんでした。
彼女が退部し、新たな案件が持ち上がらないので、一応の解決をみたと考えています』
『○○さんが……。
お疲れさまでした。怪我などはありませんか?』
『怪我はしていません。心配してくださってありがとうございます』
電車に揺られながら、一連の出来事をメッセージで報告する。
事務的な文面のやりとりだが、盗聴器のことより俺の怪我を気にかけてくれるのが嬉しい。バイブレーションと共に届いた、新しいメッセージに、すぐ目を通す。
『君のことが心配です』
短い文章を読んだだけで、胸の中を甘く引っ掻かれるような心地がする。
口角が上がっていくのを抑えられなくて、口元を空いた手で隠した。
もっと心配してほしい。もっと千明さんが俺のことばかり考えればいい。
小説のことで占められた頭に、俺の居場所が少しくらいあったっていい。
千明さんの方に目を向けると、千明さんも俺のことを見ていた。心痛を露わにした顔に、痛々しさと愛おしさが込み上げる。
ああ。世の中にはこんなにたくさんの人間がいるのに、千明さんの目も心も、今だけは俺ひとりに向いている。
(俺だけの目。俺だけの……)
先日、「千明さんの体のどこかが欲しい」とこぼした時のことを思い出す。
まさか本当に、体の一部が欲しかったわけではない。だが、欲求の解像度を上げていくと、自分が何を欲していたかを言語化出来るような気がした。
こういうことだったんだ。俺が欲しかったのは、体の一部じゃなくて、千明さんの心の一部だったのかもしれない。
見入ってしまう。外では視線を交わさないという、自己に課したルールも忘れて——
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