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〜昴流side〜
空夜が教室を出てすぐのことだった。
「せっかくあげるって言ってるのにぃ、アレルギーとか嘘つくなんてひどくない?ねぇ?」
亜美香がそう言って、妃依と心乃実に同意を求めて振り返る。
「え、でもアレルギーだったら……」
「そうだよ……」
2人は遠慮がちにそう言ったが、亜美香は2人を睨みつける。
「ただの好き嫌いでしょ?」
京はこういったことには慣れているのか、何も言わない。
「ねぇ、霧谷くん。食べてよ。食わず嫌いかもしれないじゃん?」
「アレルギーだから。何回言われても、貰えないものは貰えないよ。」
「なにそれ。クラスの有名人と仲良いからって調子乗ってんじゃないわよ。」
ボソリと呟かれた言葉は昴流には聞き取れなかった。
しかしそろそろ見ていられなくなってきた昴流は立ち上がる。
その時だった。
チョコレートの箱を開けた亜美香が、京の机の上に向かって箱を傾けようとした。
「なにしてんだ!!」
咄嗟に亜美香の手首を掴んで、止めさせる。
チョコレートは床に散らばった。
「京、お前ちょっと離れてろ。」
「えっ?こ、このくらいは平気だよ。口に入れなければ……」
「いいから、あっち行ってろ。」
「きりちゃん!」
兼が京を引っ張って行ったのを確認して、亜美香に向き直る。
「いい加減にしろよ。」
「昴流くぅん……私は別にぃ……せっかく美味しいから、食べてもらいたかっただけでぇ……」
「アレルギーだって本人が言ってんだろうが。」
「……でも、そんなの嘘でしょ?アレルギーなんて、私見たことないしぃ。」
昴流の眉がぴくりと動く。
「昴流くんがそうやって優しくしてあげるからぁ、自分はすごいって勘違いして、そういう嘘つくんだよぉ?」
『親が有名人だからって調子乗りやがって』
『チヤホヤされてるからってえらいわけじゃないのに』
『ていうかあの俳優のどこがいいの?』
脳裏によぎるのは、嫌な記憶。
それから。
『どうして喧嘩しちゃったの?』
『だって……父さんの悪口言うからっ……』
『そっかぁ、それで昴流は悲しくなっちゃったんだね。』
『怒らないの……?』
『うん。怒らないよ。でも、お友達を叩いたのはよくないね。いい?昴流。人に痛いことをしていいのは、命が危険な時だけだよ。』
命が危険な時。
そうだ、アレルギーの子に無理やり食べさせたらどうなるかなんて明白だ。
(ごめん、母さん。)
「だから私はぁ……っ!」
パシンッ、とかわいた音が響く。
「ちょっ、すばくんっ落ち着いて!」
「触んな。」
「うわぁっ!」
止めようとしてくれた裕貴まで突き飛ばしてしまったのはまずかったかもしれない。
けれど、昴流は我慢ならなかった。
「お前、自分がしようとしたことわかってんのか?!」
ガッ、とブレザーを掴んで怒鳴る。
「お前がやった事は、一歩間違えれば殺人なんだぞ?!」
「そっ……」
「アレルギーってのは他人が決めていいもんじゃねえんだよ。好き嫌いだったらなんなんだ?!嘘だったらなんだ?!本人にしかそんなのわかんねえだろうが!嘘でも本当でも、本人がアレルギーだって言ったら周りはそれをどうこういう資格ねえんだよ!アレルゲンが含まれたものはその人に近づけない、与えない!そんなの常識だろうが。」
「嘘ついてたら、私悪くないじゃないっ!」
「じゃあ本当だったらどうする?お前が嘘だと決めつけて、さっきのチョコレートを食べさせて、京が死んだらお前は責任取れるのか?!あぁ?!嘘だったら、あいつが嘘ついてた、だけで済む。でも本当だったのを嘘だと決めつけて食べさせたら、取り返しがつかねえんだぞ?!だいたい、嘘つくメリットがどこにあるんだよ?!俺が納得いくように説明してみろ!!」
怒りがおさまらず、拳に力が入ったときだった。
パシンッ、と頬を叩かれ、昴流は亜美香から目を逸らした。
「……空夜。」
「やりすぎ。俺は止めろ、としか言ってない。」
ハッとして見回してみれば女子は泣いているし、裕貴はしゃがんだままだし、兼や光樹は心配そうにこちらを見ていた。
「……木之本。来なさい。」
緋村に呼ばれ、昴流は亜美香に一言、悪い、とだけ言って教室を出た。
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