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〜恋side〜
「楽しかった?」
帰ってきた空夜にそう訊ねるが、しばらくしても返事がない。
「空夜?」
何かあったのかと思い振り返ると、空夜がしゃがみこんでいた。
「どうしたの?!なにかあった?」
「……お母さん、どうしよう。」
空夜は困った様子で、やはり何かあったようだ。
「とりあえず座りな?ね?」
ソファまで連れて行って座らせる。
昴流と話していた様子では特に喧嘩をしたとか問題があったようには見えなかった。
打ち上げの前に何かあったのだろうか。
思考をめぐらせながら、空夜の言葉を待つ。
「キス、されちゃった……」
(誰に……?まさか、昴流くん?!)
「……あ、昴流じゃないよ。」
急に冷静になった空夜が恋の思考を読んだかのようにそう告げる。
こちらを向いた顔は赤くなっていて、キスをしてきた相手に少なからず好意があるようにも見える。
「それで、キスされたことで困ってるの?」
「う、うーん……なんか、どうしていいかわかんなくて……部活の、友達なんだけど……だから明日も会うし……」
明日会うのは気まずいということだろう。
「告白もされたんだけど、俺、その子のこと好きかとかわかんなくて……言われて始めて意識したっていうか……ずっといいやつだなって、思ってたけど、でもそれは友達としてで、恋愛対象に見たことはなくて……」
「空夜は、その子にキスされて嫌だった?」
「……ううん、嫌じゃなかった。」
そう言うと空夜は顔を手でおおった。
「嫌じゃなかったから、困ってる……」
耳まで赤く染まっている。
空夜はまだ、その子への返事は決めかねているらしかった。
「どうしたらいいんだろう……何も考えずに断るのもとても失礼だよね……彼は、あ、男の子なんだけど、彼は真剣に伝えてくれてて……せめてちゃんと考えてから、断るか付き合うか決めないと……」
「明日、結論を聞かれるの?」
「いや、そんなことはないと思うけど……早い方がいいかなって……」
「そっか……空夜はまだ、どうしたいか決められてないんだね。」
「うん……」
空夜は恋愛に対してはあまり熱烈なほうではない。
告白されて付き合っている、という話は何度か聞いたことがあるが、別れようと言われて別れた、というのが毎度の終わり方だった。
告白されたあと、こんな風に悩む様子はあまり見られなかったし、照れているところも初めて見た。
(結構特別な子なのかな。)
「うーん、空夜も知っての通り、お母さんとお父さんは、最初は恋人ごっこから始めたんだよね。」
「うん。」
「だから、すぐに付き合わなくても、いいんじゃないかな?今まで考えたことがなかったことを素直に伝えて、これからは考えながら付き合っていくから、もう少し答えは待って欲しいって、言ってみたらどうかな。」
「保留にするってこと……?」
「そうだね。恋人になるかどうかを考えることを前提として、お友達としてお付き合いするのもいいと思うよ。デートに行ってみたり、よく話してみたりして、それから決めたって遅くはないよ。」
「そう、かな?」
「うん。きっとその子は、空夜が真剣に悩むくらいいい子なんでしょう?それならきっとわかってくれる。もし分かってくれないなら、それまでの関係ってことだよ。それに、恋愛が上手くいかないから友達としてもダメ、ってことはないしね。」
「……そっか。」
「そうだよ。でも、いきなりキスしてくるなんて、行動力のある子だね。」
クスリと笑ってそう言うと、空夜は頷いた。
「普段はちょっとチャラいくらいなんだけど……今日はすごく真剣な顔だったからびっくりした……」
「それだけ空夜のことを本気で想ってくれてるんだね。それは、恋人にならなくても、とても嬉しいことだよ。」
「確かに。」
「じっくり考えてみな。後悔はしないようにね?」
「……うん。ありがと、お母さん。」
「いいえ。あ、でもお父さんには内緒にしておきなよ?またうるさいから。」
「ふふ、わかってる。」
2階で瑠梨の様子を見ながら台本を読んでいる琉には、この話し声は聞こえていないだろう。
琉は子どもの恋人にやけに厳しい。
「お母さんは空夜の味方だからね。困ったことがあったり、また迷うことがあったら話は聞けるよ。いいアドバイスはできないかもしれないけど……」
「うん、それだけで嬉しい。ありがとう。」
「ふふ、落ち着いたみたいだね。じゃあお風呂入っておいで。温かくしてあるよ。」
「うん、いってくる。」
いくらかスッキリした顔になった空夜が2階にあがってバスタオルなどを持ってきてから浴室に向かう。
それを見届けて、恋も一度2階にあがった。
昂と春陽の部屋を覗くと、昂と陸玖が同じベッドでギュウギュウになって眠っている。
どうやら一緒に動画を見ていてそのまま寝落ちてしまったらしい。
起こさないように昂を隣のベッドに移し、春陽が仕事をしている書斎に行くため1階に戻る。
「春陽、入っていい?」
「ん、どーぞ!」
ノックをして、返事がきてから扉を開ける。
「陸玖が春陽の部屋で寝ちゃって、ベッド使ってるから、今日は空夜と陸玖の部屋で寝てくれる?」
「ん、いいよ!ていうか俺このままここで寝るかもしんないし……ちょっとまだ終わりそうにないんだよなぁ。」
「そう……無理しないで、体冷やさないようにね。」
気温はだんだん夏に向けて上がってきているが、まだ油断はできない。
「うん、ありがとう。明日は俺在宅だし、もし今日休めなかったら明日寝るよ。」
「うん、そうして。じゃあ朝は起こさない方がいいね。」
「あ、いや!朝ごはん食べるときだけ声かけてもらっていい?母さんが食べるときでいいから。」
「わかった。」
書斎にも一応ベッドはあるし、とりあえずは大丈夫だろう。
これ以上仕事の邪魔をしないように、恋はそっと部屋を出た。
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