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出会ったことが、運命だった
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「すまなかった」
え?と思って顔を上げると、彰さんは困ったような顔をしていた。
「君にそこまで勘違いさせていたとは……確かに、説明は事後でも構わないと思っていたが、ここまで君を悩ませてしまったとは……。私は君の番失格だ」
「え?今、なんて?」
「ミツカ」
彰さんは切なげな声を出すと、すっと目を閉じて、顔が近づいてくる。あ、キスされる、と分かった次の瞬間には、暖かい感触に包まれていた。
「私に番はいないよ。いるとすれば、それは君だ」
静かに唇が離れると、彰さんはそう言った。
「君が私の番だと勘違いをしているのは、きっと同じ研究所の職員だろう。ここは、βをΩに変える薬の研究をしている。だから、Ωの協力も仰いでいるんだ。そのせいで、君は勘違いしたんだろう」
「でも、だって!」
例え番がいなかったとして、すべてにおいて完璧な彰さんが俺を選ぶ理由なんてない。
「……ずっと、ずっとね、私は君が気になっていた」
彰さんは優しく何度も俺の頬を撫でると、少しはにかんだように笑った。
「私の一族は、βを研究対象としていた。βの繁殖力はとても強い。それを、この荒廃した世界でも生かせないか、とね。私としては、自分より劣る、研究所の中でしか生きていけない種になんて興味はなかったんだ。そう、君に会うまでは」
「俺に?」
「そう。まだ私が学生だった時代だ。君のいた研究所を視察に行った時だ。君はたくさんのβに囲まれて、まるでお兄さんのように振舞っていた。整った容姿で、それだけで言えば外の世界でも生きていかれるようなαやΩにも思えるのに、君は確かにβで。けれど、君はそんなことを関係ないと、精いっぱい生きていた。小さい子どもの面倒を見て、コロコロ笑って……その時に初めて、私は、君達βが私たちと同じ人間なのだと分かったんだ」
彰さんが初めて施設に来た時。それは俺だって覚えている。
研究員の他のαを見たことはあったけれど、彰さんは別格だった。とても美しくて、でも、冷たい人に思えた。
「そこから、私は新たな研究を始めた。君がΩとなって一緒に外の世界を歩く夢を見た。αに比べて、Ωの出生率はとても低い。βをΩに変える研究は、当時も熱心にされていた研究だったから、難しいことではなかったよ。そうしてようやく、今日になったということだ」
「ちょっと待って。待って。それって」
うん、と彰さんが微笑んだ。
出会った当時であれば信じられないような、優しい、暖かい笑み。
彰さんは、俺に会って初めてβも人間なのだと感じたと言っていた。
俺もそうだ。彰さんに会って初めて、αという存在を、研究員の怖い人ではなく、きちんとした人間なのだと分かった。
だけど、同じ人間だなんて思えなかった。
完璧なαと、不完全なβ。
でも、違ったんだ。
彰さんの笑顔を見て、ようやく俺も分かった。
俺達は、人間なんだ。αだのβだの、少し違うだけの、同じ人間。
「好きだ。愛している。順番が前後してすまない。ミツカ、私の番になってくれ」
うん。
俺は言葉に詰まって、ただ頷くことしかできない。
うん、うん。何度も何度も頷いて、涙をぬぐって、必死に彰さんを見つめた。
「好き。彰さん。俺、ずっと、あなたのことが好きだった……!」
良かった。そう言って優しく笑った彰さんは、何度も俺にキスをしてくれたのだった。
「ミツカ、私の大切なミツカ。一緒に生きよう。私は君に見せたいものが、たくさんある」
まさか、小さい頃の夢が現実になるなんて思えなかった。
俺は彰さんの言葉に、満面の笑みを浮かべる。
例え荒廃した世界といえど、彰さんと一緒に見る外の世界は、とても綺麗だと思ったから。
おわり
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