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注文の多い料理店の名前は、山猫亭という。
森の中で狩りをしていた男性2人組は、お腹が空いたと洋館へと迷い込む。
『若くて太った人、歓迎。』
それを見た2人は、美味しいものが食べられると思って、意気揚々と中に入った。
『髪を梳かして泥を落としてください。』
『コートを脱いでください。』
などと、次々に指示があり、よっぽどの綺麗好きか偉い人物がいるのだろうと、店の奥へと進んでいくと、最後に
『体に塩を塗り込んでください。』
その指示で、自分たちが食べられるのだと分かるストーリーだ。
最後には救われるわけだが、宮沢賢治の皮肉たっぷりの話は、俺の好みだった。
「美味しい!」
目をキラキラさせながら麺を啜る甲斐くんは、それはそれは可愛かった。
「だろ、学生ん時から通ってるんだ。」
そう言うと、甲斐くんは優しい目をした。
「せんせ・・・じゃなくて、山野さんはラーメンお好きなんですか?」
「んー、そうだね。サッと食べれてカロリー取れるし、第一美味いだろ?」
ここは、マナーなんて必要ない。
高級な日本料理店やフレンチの店だと、こうはいかない。
ふたりで楽しく喋りながら舌鼓を打った。
ノンアルコールだが、ビールを何本も開けた。
アルコールが入っていないのに、酔った気になれるから、ありがたい。
夜勤明けの日勤をしてからの今だから、緊急で呼び出される事は無いだろうが、責任ある立場になってからは、アルコールは飲んだことがなかった。
「ごめんな、ノンアルで。」
「いえ、なんだか酔っ払ってます。」
別に甲斐くんは飲んでもらっても構わなかった。
でも、こうやって一本の瓶を注ぎ注がれするのは、関係が近付いた気がして嬉しかった。
「俺も。今日は久しぶりに心から笑ってる。」
「ふふ、良かったです。」
ほんのり紅潮した頬が、可愛い。
なんだか好意を寄せられている気がしてならなかった。
「あの・・・山野さんて、おいくつですか?」
「俺?42。」
つまみに味玉を割ると、その半分を甲斐くんがスッと取った。
「ひとまわり差です。おれ、30なので。」
「へー。やっぱり若かった。」
人が割った卵、嫌じゃないんだ?
もぐもぐと美味しそうに頬張る口元を見ていると、何だか変な気になってくる。
慌てて目線をグラスに戻した。
「お付き合いしている人っていらっしゃるんですか?」
「いんや、年季の入ったフリーだよ。」
そう言って、笑いかけた。
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