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授業が始まってしまえば、
僕と柊君のことを追求する強者なんて現れるはずもなく、
先ほどとは打って変わって静かで真面目な授業光景がそこには広がっていた。
恐らく僕たちの事を最も気にしているこーき君も、
すぐ後ろに柊君本人がいるとなれば僕に何かを言ってくることはないらしい。
僕からしてみれば、真面目に授業を聞けるのはむしろありがたいし、
一年も遅れをとっているのだから真剣に机に向かうのは当然だ。
でも、全くと言っていいほど
集中は出来ていない。
その理由は、後ろから感じる恐怖を覚えるレベルの視線。
僕も色々と気になっている事はあるけれど
柊君、僕の事見過ぎじゃないだろうか…。
僕、柊君のこと見えてないのに見られてるのわかるよ。
背中と後頭部が痛い気がする。
「…じゃあコレ。そこのメガネの…
お、そうだそうだ。榊君、答えて。」
「っ。」
担任の先生じゃない、初めましての先生は
名簿を見て僕の名前を呼んだ。
…んっと。
聞いてませんでしたとか
言えるわけない。
隣…は、見るからにちんぷんかんぷんって顔してるし…えっと…。
「榊で…合ってるよな?
答えなさい。」
う…こ、ここはもう
素直に謝るしかない。
そう決めて、席を立とうとしたその時。
こつん
と、椅子の下を軽く蹴られた。
背中に何かが当たる感触。
反射的に振り向いてしまうのは仕方のないことだ。
「これ、読んだら。」
「…え。」
柊君の手には1枚の紙切れ。
乱暴に破り取られたであろうノートの切れ端には
雑な文字で、ある文章が書かれている。
…からかわれるなら、それでもいいや。
僕は席を立ち、紙に書いてあることをそのまま読み上げた。
「〜…と思います。」
「お、模範解答だな。その通りだ。
座っていいぞー。」
紙に書かれた柊君の文字は
からかいでも何でもない、柊君が考えて導き出した”正解”だった。
そういえば柊君の周りの子達がよく
平均点上げるなって怒ってたっけ。
柊君…頭よかったもんな。
僕は渡された紙に、ありがとうと書き加えて
後ろに戻そうとして
半分に折って気がついた。
右端に小さく書かれた
『あの榊で合ってる?』の文字。
同じだ。
木へんの2画目を跳ね上げる癖、昔と。
もう一度、ペンを持った。
お返事書かなくちゃ。
“合ってるよ”
あとは、なんて書いたらいいだろう。
雰囲気変わったね
苗字変わったんだ
…いや、違うな。
何度も消して、何度も書き直して
やっと辿り着いたのは。
先生や、さっき柊君を囲っていた怖そうな人にバレないよう
前を向いたままそっと紙を後ろの机に置いた。
カサっと紙の擦れる音がして
心臓は急に動きを速める。
のに
ビリッ
そんな痛々しい音を最後に
後ろから聞こえる音は無くなった。
“また会えて嬉しい”
柊君は、そう思ってはくれなかった。
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