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呼び方問題-2≪終≫
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口で突き放すことを言っていたって、歩くときはピタリとくっついて歩きたがるし、隣に座っているときも必ず肩同士が触れているし、何より照れているときはすぐに耳が赤くなる。
口に出さなくても感情を素直に伝えてくるその耳が、景親は好きだった。
目の前で熟れている耳朶に口元を寄せて、ずっと呼びたかった名前を恐る恐る口にする。
「…とうじ、」
少し掠れてしまった声は、聞き取りずらかったかもしれない。
けれど猫のように飛び退いてこちらを振り返った桃司は、顔まで真っ赤に染まっていて、瞳にうっすらと涙まで浮かべてこちらを睨み付けている。
「…っ、ずるいっ。」
そんな顔で言われたって、怖くもなんともないんだけどな。
「来るな!やっぱりだめ!呼ばないで!」
ローテーブルの向こうまで逃げてしまった桃司に手を伸ばすけれど、桃司は身体中の毛を逆立てて威嚇する猫のように後退っていく。
「桃司、逃げないで。」
「呼ぶなって!馬鹿!来るな!」
もう一度名前を呼んでとうとう部屋の隅まで追い詰めた。
「照れてる?」
「見ないで!」
必死に両手で赤くなった顔を隠そうとしているのがおかしくて、喉の奥から笑いが漏れる。可愛いなあと思いながら、景親は自身の分厚い眼鏡を外した。一気にぼやける視界。ここから見えるのはせいぜい桃司の輪郭くらいだ。
「見えてないよ、ほら。」
だから顔を見せて、とお願いすると桃司はゆっくり顔から手を離す。なんとなくその動きを察して、再び桃司へと手を伸ばした。その指先は今度こそ彼の肌に触れて、温かい体温にホッと安心する。
「捕まえた。」
そのまま腕を引き寄せて、桃司の体を腕の中に閉じ込めた。
「僕が名前で呼んでいいの?」
「たまに、なら、いい。」
小さな声で、桃司はぼそりと答える。
なぜか不満そうな声色に、また笑みが溢れた。
いいよ。
君になら、何度だって何時だって君の望む通りに君を呼ぶよ。
小悪魔なモモくんも、天の邪鬼な桃司もどっちも世界で一番大好きだから。
≪呼び方問題≫
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