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三章十一話 部屋にいたのは…
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春哉は慣れた足取りでマンションのエレベーターを上がっていき、影井の部屋を貰った合鍵で開けて入った。
男物の靴が一足、揃えて玄関に置かれている。それが影井の物だと思った春哉は、すぐに部屋に上がってリビングへと走った。
「影井さんっ!! お待たせっ!!」
だが、春哉は硬直したまま動けなくなった。目の前にいるのは影井ではなかったのだ。
顔色は青くなり、冷や汗が流れた。
「よぉ。元気そうだな? お前のそんな姿初めて見たわ」
ダイニングで椅子に座っている厳つい男は、不遜な態度で春哉を見上げた。
──峰岸だ。
体温が下がっていくのが分かった。心臓だけがうるさく鳴り響いて、まるで警鐘のようでもある。
「顔色悪いぞ、大丈夫か?」
峰岸が何かを言っているが、心臓の音で聞こえない。早く逃げ出さなければ、と思うのだが身体が動かない。
「まぁ座れよ」
峰岸が立ち上がった。ビクッと身体が大きく震えてそのまま座り込んでしまう。力の入りすぎた足は動かず、逃げる事もかなわない。
峰岸が近付いてくる。春哉は涙を浮かべた。
「怖がるなって。何もしないから、ほらこっち、ジュースでも入れてやるか?」
そんな放心している春哉の手を峰岸が掴んだ。体を支えて立ち上がらせると、椅子へ座らせた。少しずつ息を整え、峰岸を凝視した。
過去にされた事を思い出すと恐怖しかないが、もう怖がってばかりはいられない。峰岸は影井の友人でもある。毅然としようと春哉は背筋を伸ばした。
「……み、峰岸……さん。なんでここに?」
「俺は影井の友人だからな。遊びに来てたの。お前が来る前に帰るつもりだったけどな」
「影井さんは?」
「今出掛けてる。すぐに戻るって」
峰岸はオレンジジュースを入れたコップを、春哉の前に置き、気遣ったのか春哉の斜め向かい側に座った。
「ありがとうございます」
「普通に会話出来るんだな」
「はい。あの、僕に何か言う事ありませんか?」
「あ?」
飲み物を飲んで落ち着いた春哉は、覚悟を決めて峰岸に向き合った。
「僕、峰岸さんには感謝してます。まともに動けない僕の世話を全部してくれて。あの頃の僕は人形と変わらなかった、可愛がってくれる主人がいなければ生きてはいけませんでした」
「で?」
「でも、身体に受けた傷は心にも残っています。あの時、どれだけ怖かったか、どれだけ痛かったか分かりますか?
いくらお金をかけて僕を所有したから、世話をしたから、死なない程度に手加減をしたからといって、僕は許しません」
春哉は怒りの顔を峰岸に見せるが、峰岸はせせら笑った。子供の言う事など聞いても無駄だとでも言いげだ。
「おいおい、お前は俺に感謝しかない筈だ。もう二十歳のお前が高校に入れるのだって、十六歳と偽って入学出来るのだって、俺が理事長である俺の親に口を利いてやったからだ」
影井から詳しく聞かされていなかったが、それでも負けじと反論する。
「それは感謝しています。でも、それとこれとは別の話ですよね。僕は将来、影井さんの役に立てる男になります。
その時、私怨であなたに同じ目に遭わせてもいいんですよ?」
「そんなもの出来るわけ……」
「します。あなたを買い取って僕の奴隷にします。何されても文句ないですよね?
あぁ心配しないでください。生活面で困らせる事はないので」
にこっと笑ってみせる。もう弱い子供ではない、対等な大人なのだと。
「分かったよ」
峰岸は立ち上がり、春哉のすぐ真横に立った。
「すまなかった」
深く頭を下げて謝罪をした。その姿を見て、春哉はようやく溜飲が下がった気がした。
「はい、許しますよ。どうぞ座ってください」
「この前までガキだと思っていたが、結構成長してるもんなんだな」
「あの頃とは違います。もう二十歳ですから! ……あ、そうだ。峰岸さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「あ?」
数分して影井が帰ってきた。影井は二人が普通に会話をしているところを見て驚いた。
「あれ春哉、早かったな。峰岸は大丈夫だったろう?」
「お帰りなさい。話してみたら案外普通の人だね〜」
「案外って、お前な」
「だって、サイコパスかと思ってたもん。普通、人の身体殴ったり切り付けたりしながらセックスしないよね?」
「普通はしないな」
「でしょ?」
春哉と影井はジトーっと非難の目を峰岸に向けた。
「さっき謝っただろ! お前ら二人の邪魔するつもりないからもう帰るわ。春哉、あの件今度連絡する。郵送でいいか?」
「うん、いいよ。待ってるね」
そう約束を交わして峰岸は帰っていった。話が分からない影井は首を傾げている。
「あの件?」
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