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三章十七話 三ヶ月ぶり
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「影井さんっ!」
「春哉、随分元気だな」
影井は春哉の頭をよしよしと撫で、安心したというように優しい笑顔を浮かべた。
「うん、楽しくやってるよ」
「風邪はひいてないか?」
「超元気!」
「勉強はどうだ? ついていけてるか心配だ」
「中間テストで学年五十五位だったよ。中の上ってところ」
「そうか、良かった。いじめられてないか?」
「あはは、ないない」
「部活は楽しいか?」
「もっちろん! 体力ないからついていくの大変だけどね、サッカー出来るの楽しいっ!」
影井は春哉をぎゅっと抱き締めると、隣で立ち尽くしている柳瀬はギョッとした。春哉からすればよくある事なのでされるがままでいる。
「良かった。ずっと会えないから、心配だった」
「影井さんは忙しかったの?」
「いや。忙しくなるのはこれからかな。明日は土曜だし、うち寄っていくか?」
「そうしよっかな! 着替えてくるから待っててね! あっ、影井さん。僕の友達の柳瀬だよ〜。柳瀬、この人が影井さん」
春哉は柳瀬の方へ手を差して紹介した。急に振られた柳瀬は挙動不審な様子で頭を下げた。
「初めまして、柳瀬です」
「初めまして影井です。春哉がいつも世話になっている」
「いえ、こちらこそ」
特に会話もなくシーンと静まる。沈黙を破ったのは春哉だ。
「じゃ、着替えてくるね! 柳瀬、ごめん。僕帰る」
「やり取り見てたら分かるよ。俺も帰るから」
「じゃ一緒に行こっ! 部室まで競走ね!」
「えっ!? あっ、狡いぞ」
春哉が駆け出して、柳瀬が追いかけた。すぐに追い越されてしまって柳瀬に追い付こうと必死に走った為、ゼーハーと苦しそうな呼吸になる。
「大丈夫か? あの人過保護っぽいけど、心配してこっちにこないかな?」
「ハァッ、ハァッ……ハァ、はぁ……。大丈夫! 過保護だけど、僕の成長の邪魔はしない人だよ」
「あの人が物静かなインテリ?」
「そうだよ。よく覚えてたね」
「もしかしてって思って」
「いつもは物静かだよ」
「過保護なかーちゃんにしか見えねぇ」
「あはははっ」
夏用の制服に着替えて荷物を持ち、柳瀬と別れて、影井と共にマンションへ向かった。途中母親への連絡も忘れない。
「久しぶりだなぁ。部活忙しくって全然来れなかったから」
「そこのサッカー部は強豪校って程でもないだろ? 程々頑張っているレベルだと思ったが」
「僕の体力がなさすぎて、部活終わった後も走ってるんだ〜。持久力つけないとね」
「そうだな。随分逞しくなった」
久々に会う人から見れば、随分筋肉が付いたように見える事だろう。峰岸が春哉を引き取った時はもっと細かったし、それから回復したと言っても体重は四十三キロ程しかなかった。
身長百五十五センチで、肉がほとんど無い状態であった。
影井が引き取ってから少し肉は付いてきたが、それでもまだ五十キロもない程であった。それが今では身長は百六十センチに伸び、体重はは五十三キロだ。
標準体型近くになっていた。
「サッカー部じゃ一番ヒョロいよ。中学時代は病気だったって設定のせいで皆に気遣われてるし」
「これから大きくなる」
「僕影井さんくらい背ぇ高くなりたいな〜」
「ははっ、遺伝的に難しそうだ」
「えー、そっかぁ」
部屋に入ると、春哉は懐かしそうに破顔させる。かつて使っていた自分の部屋を覗いた。
もう何も置いていないので、空き部屋となっていた。
「影井さん一人で寂しくない?」
「そりゃ寂しいよ」
「僕戻ってこようか?」
「そんな事心配しなくていいんだ。君は、ずっと一緒にいられなかった親御さんとの時間を大事にしなさい」
「はぁい」
影井は春哉にコーヒーを入れた。ミルク多めのカフェオレだ。軽く談笑してから帰る事になった。
帰りは車で自宅まで送ってもらった。
「影井さん、何から何までありがとう」
「当然の事をしただけだ」
「僕が影井さんの所有物だから?」
「……違う。もう過去に起きた事は忘れなさい」
「忘れないよ。忘れたくない。僕が商品だったから影井さんに会えたんだもん。僕はあなたの物だから、あなたの命令に従うよ」
「じゃあ命令だ。君は君らしく、自由に幸せに生きなさい」
「本当にいいの?」
「勿論だ」
「ふぅん。…………のに」
「今なんて言った?」
「なんでもない」
春哉は声に出さずに心の中で思っただけだったが、無意識に声に出ていたようだ。
今のうちに命令しておけばいいのに、と。
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