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三章二十二話 自覚
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「医者呼ぶから、待ってろ。到着までの間に下半身は洗ってやるから」
峰岸は部屋を出ようとしたが、春哉は制止した。
「え? いいよ、唾付けとけば治るって」
「そこまで深く刺してないけどな。でもバイ菌が入ったらいけない、手当しないと」
「じゃあ、確か消毒液とコットンあったでしょ。それ貸してくれればいいから」
春哉、問題ないという澄ました顔でベッドに寝転がった。
「痛み、まだ感じないのか?」
「痛いのは痛いよ。でもちょっと触覚が鈍ってるかな。熱い鍋持って気付かずに火傷しちゃった事があったくらい」
「快楽も感じづらいんじゃないのか?」
「自慰はしてるし、そこまで感じにくいわけじゃない」
「俺のせいだな。生涯面倒見る気でいたから容赦しなかったんだ、すまない」
「もう許してるってば。峰岸さんはもう気にしないで。意地悪言う癖に変に気にしいだよね」
峰岸は傷の手当をすると、タクシーを呼んだ。タクシーに乗る間際、峰岸は春哉を呼び止めた。
「春哉。社会に出たら、交渉はもっと難しい駆け引きになる。お互いが対等なんて事は有り得ないし、相手が得すると思うような武器を持っていかないと話にならないぞ」
「うん。今回の事でよく分かったよ。この武器は他じゃ使えないしね」
春哉は赤くなった腕を峰岸に見せた。
「そうだ。自分の体を使うなんて以ての外だ。たちまち食い物にされるぞ」
「峰岸さん、ありがとね。次来る時は納得させられるだけのカードを持ってくるよ」
「バカか。お前はまだ学生だし、そんな事してる場合じゃねぇだろ。そういうのは今後学んでいけばいい。ほらよ持っていけ」
峰岸は売買契約書を春哉に渡した。内容を上から下まで全部目を通し、それが偽物ではないと確認するのを怠らない。
「いいの!? ありがと! 今度またお礼に来るね」
「ああ。影井とくっついたら二人で来いよ。祝ってやるから」
峰岸から予期せぬ言葉が出てきたので、春哉は思考停止して固まった。
「ん? なにそれどういう意味?」
「お前、影井が好きなんだろ? 応援してやるって言ってんの」
「そっか、バレてたんだ?」
「知らねーよ。詩鶴が言ってたんだ」
「そっか」
自分が思っている以上に自分の身体は素直だったらしい。影井が好きだと周りが見て分かる行動をしていたのだ。今まで春哉自身は無意識下であったが、もう自覚をした。
「じゃあね、峰岸さん。次に会う時はまた大人になってるから!」
華々しい笑顔を向けた後、タクシーに乗って自宅を目指した。後ろを見ると、見えなくなるまで峰岸が見守っていた。
「ほんと過保護」
峰岸は峰岸で、タクシーを見つめて呟いた。
「あー。影井にやるんじゃなかった」
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