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2.チャンス
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「よりにもよって、なんで俺たちのデビュー曲発売日に、シングル発売したりするんだよ!しかもオレ達と同じシークレットって、事務所ぐるみの嫌がらせか!!」
目の前にあるガラス製の応接机を拳で叩き大声で叫ぶ卯月春を、倉木綾人は宥めるように服の袖を軽く引っ張る。
「春、落ち着けって」
「これが落ち着いていられるか!」
ツリ目気味の猫目で、少し長めの黒髪を毛先だけオレンジ色に染めた春は、一見人懐っこく軽い印象を与えるが、実際は真面目な性格だった。
春を宥める綾人は、春より十センチほど背が高く、クォーターで目鼻立ちがくっきりとしており、さらに色素の薄い髪で独特の雰囲気を醸し出し、その場に立っているだけで人の目を惹きつける容姿だった。
だが、綾人本人は周りの目は全く気にせず、常に冷静であり、感情をめったに表面に出すことのない性格だった。
「まさか、決まっていたお仕事ぜーんぶキャンセルにされて、話題も持っていかれちゃうなんてねー」
深い溜め息をつきながら、社長という卓上名札が置かれた高級机に寄りかかるのは、アイドル事務所『スターチャート』の社長本人だった。
「社長も、そんな他人事みたいに言わないでくださいよ!」
「他人事のはずないでしょ。せっかく、シークレットデビューにして情報規制したのに、今までの計画が水の泡よ」
春と綾人は、アイドル研修生を経て数日前に『Aries』という名でユニットデビューしたばかりだった。
シークレットデビュー当日は、シングル発売とデビュー記者会見を同時に行い、テレビや雑誌の取材を総なめにし、華々しくデビューを飾るはずだった。
だが、ライバル事務所の今人気絶頂アイドルグループが、同日に突然シングル発売を行ったせいで、話題は全て横取りされてしまった。
そのため、デビューシングルはほとんどメディアに取り上げられることもなく、『Aries』はスターチャート設立以来の最低販売数を記録することになってしまったのだった。
「ねぇ、あんたたち、これからどうする?」
海外製の派手なスーツ姿を着こなし、オールバックの髪型でありながらも、オネェ口調の社長は、ブラインドが降ろされた窓を見つめ、腕を組んで肩を竦めた。
「どうするって…。次のセカンドシングルで…」
「次…ね。まぁ、次があればいいんだけど…」
「…!それって、どういう意味ですか!!」
春はソファーから急に立ち上がると、声を荒げて社長に詰め寄った。
「それって解散ってことですか?」
「春、落ち着けって」
今にも殴りかかりそうな剣幕の春を、綾人は腕を掴んで静止させるが、そんな春の頭を、社長は子供をあやすように軽く撫でた。
「ばかねぇ。そう易々と引き下がるわけないでしょ。でも、このままじゃ、セカンドシングルに辿り着く前に重役会議で問題にされて…お終いね。あの人達はすぐお金になるかならないの、シンプルな考え方だから」
「お終い…」
(やっと、綾人とデビューしたっていうのに…。これじゃあ…)
春は目の前が真っ暗になって、項垂れてしまった。
「春…」
そんな春の腕を掴んでいた手を、綾人はそっと静かに離した。
「まぁ、そんなあなた達に、神様はチャンスをくれたのかもね」
そう言って社長が差し出したのは、住所が書かれた紙と一枚のカードキーだった。
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