アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第26話
-
『朔夜はどうしたい?』と聞いてきた一ノ瀬の顔が今でも忘れられない。
あの時、一瞬、一ノ瀬の手を取りそうになったのを我慢した。
一ノ瀬の手を取ってしまったらまた、あの苦しい毎日が待っているのかと思うと取ることが出来なかった。
そして白雪が謝りながら卯月の手を取ると一ノ瀬は悲しそうな傷ついたようなそんな表情をしていた。
その表情を自分は何回も見たことがあった。
よく、自分も同じ表情をしていたなと思った。
一ノ瀬からの言葉や行動にいちいち反応して勝手に傷ついて。
その時の自分の表情と全く同じだった。
なんで彰人がそんな表情をするの?
そう聞こうと口を開けようとした瞬間に卯月が「それじゃ」といい白雪の腕を引き一ノ瀬に背を向けて歩き出した。
何も言葉を発しない一ノ瀬に後ろ髪惹かれる思いをしながらも自分の見間違いだと言い聞かせて卯月についていくのだった。
白雪が一ノ瀬の手を取らずに自分の手を取ってくれたことに卯月は嬉しさのあまりに顔が緩みそうにになった。
どれだけ待っていたことか、白雪が一ノ瀬ではなく自分を選んでくれることを。
一ノ瀬が白雪を迎えに来たといったときはものすごく焦った。
一ノ瀬が白雪に向ける表情が今までと、全く違うことにすぐに気が付いた。
そしてその表情が何を意味しているかなんて考えなくてもすぐにわかった。
『どうしたい』と一ノ瀬が聞いた時、本当は白雪が誰の手を取るのか怖かった。
本当は白雪がどちらかの手を取る前に自分が握ってしまおうかとすら思った。
あぁ、考えなくてもわかる。
白雪は一ノ瀬の手を取るだろう。
そう思った瞬間、自分の右手を白雪が握った。
驚きのあまり白雪の方を見ると白雪は一ノ瀬の方を見ながら困惑したような表情をしていた。
そして何か一ノ瀬に言おうとしているのを見た瞬間、僕は白雪の手を引いて買い物を再開させた。
何事もなかったかのように
ねぇ、朔夜?
『早く一ノ瀬君のことを忘れて』なんて意地悪なこと言った嫌いになる?
その言葉は白雪に伝えられることなく消えて行った。
その数日後、白雪は何者かに連れ去られたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 30