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それでも僕は君が好き Ⅳ
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「今回の彼女さんは長いんじゃないっすか。」
駿が思わずつぶやいた。智が週イチぐらいしか来なくなるとそうなんだと駿も学習していた。
「そうだね、今回は職場の上司の斡旋らしいから。」
結翔が言った。
「にしても、結翔さんには全部報告来るんですね。」
「そうだね。」
結翔は苦笑した。
「俺が知る限りでももう結構な人数っすよ。」
「モテる男はつらいよね。」
「結翔さんはそれでいいの?」
もう一人のアルバイト、皐月が言った。
「うーん、こればかりは僕にはどうしようも出来ないでしょ。」
「胃袋はつかんでるはずなのに・・・。」
皐月は悔しそうに言った。
「ねえねえ、君たち、僕と智をどうしたいの?」
結翔は笑って言った。
「そりゃあ、ねえ、ハッピーエンドっすよ。」
駿が言った。
「あ、結翔さん、これ、駿の新刊なんですよ。見ます?」
皐月が鞄からきれいに装丁された同人誌を取り出した。
「おい、こら、皐月!」
慌てて駿が取り返そうとする。
「えー、見たい、見たい!」
結翔がはしゃいだ。駿の抵抗むなしく結翔の手に同人誌が渡ると、結翔が読み始めた。
ページをめくっていくにつれて結翔の顔がどんどん赤くなる。
「あー・・・。」
駿も同時に赤くなっていく。その二人の姿を皐月がニヤニヤしながら見ている。
「駿くん、これって・・・。」
「明らかにモデル結翔さんと智さんだもんねぇ。」
皐月がちょっと意地悪そうに言う。
「こ、これは、フィクションだよ、フィクション。俺の妄想っす!」
恥ずかしそうに駿が言った。
「妄想って?!」
結翔がもっと赤くなった。
「このくらい激しくしないと、売れないんだもんね、駿。」
「あ、いや、あははは・・・。」
駿が頭をかいた。
(あれ、智じゃないか・・・。)
取引先との打ち合わせ後に訪れたホテルのカフェに薫は智と女性の二人を見つけた。
(これがこの間言ってた今の彼女さんか・・・。)
薫は思わず智を背にする席に座ってしまった。静かにブラックコーヒーを注文すると、資料を見るふりをしながら聞き耳を立てた。
「ねえ、智さん。ここのホテルでいいと思うのよ。さっきのウェディングドレスも素敵だったでしょ。」
彼女がうれしそうに話す。
(?!)
薫が思わず声を上げそうになった。
「そうか?」
智は一言つぶやいた。
「智さん、そろそろ私たち、真剣に考えましょうよ。」
「ああ、そうだな。」
(結婚するのか、智!)
薫はいてもたってもいられなくなった。コーヒーを一気に飲み干すと、席を立った。
(・・・薫?)
智は薫の後ろ姿を追った。
薫はそのままカフェダイムへ走っていた。
(これは、駄目だ。絶対に駄目だ。)
颯爽と走り去る薫を街の人が何事かと振り返るが、薫はお構いなしに走り続ける。
「結翔!・・・はぁはぁ・・・。」
ちょうどランチタイムが終わって一段落していたカフェダイムに薫の声が響き渡る。
「ど、どうしたんすか、薫さん。」
いつもと違って取り乱している薫に駿が水を差し出す。
「あ、ありがとう。駿。」
一気に飲み干して一息つくと、薫は真面目な顔で結翔を見た。結翔は若干顔がこわばっている。
「あいつ、結婚するぞ。」
結翔の顔から血の気が引いたのが分かった。駿は慌てて結翔のそばに駆け寄った。
「大丈夫っすか、結翔さん。」
「・・・・。」
結翔は駿に抱えられてようやっと椅子に座った。そこへ、今度は智が駆け込んできた。
「はぁはぁ・・・薫、早い・・・。」
「智!」
駿は慌てて準備中の札を表に掲げた。
「智、結婚するの?」
力なさげに結翔がつぶやいた。
「・・・。」
智は答えない。黙って薫の顔を見る。
「はっきり言えよ。」
薫は怒っていた。
「結婚しようという話は出ている・・・。」
智は答えた。
「お前・・・。」
薫の右手が智の頬を殴った。
「智さん!」
駿はあわてて後ろから薫を羽交い締めにする。
「離せ、駿!」
智の口から血が滴る。結翔は智にタオルを差し出した。
「大丈夫?智・・・。」
「結翔!」
薫が叫ぶ。駿は結翔が涙ぐんでいるのが遠目でも分かった。
「結婚はめでたいことでしょ。みんなで祝ってあげなくちゃ。」
結翔は無理矢理微笑んだ。
「結翔!そんなこと言うな!」
薫がさらに叫ぶ。
「智、俺はお前のこと一生許さないぞ、絶対にな。帰れ!」
「・・・。」
智はふと寂しげな顔をしたが、黙ってカフェダイムを後にした。
「あいつ、あいつだって結翔のこと好きなのに・・・。」
さっきまで怒っていた薫が泣いていた。駿はそっとタオルを差し出した。
「夜の準備しなくちゃ・・・。」
結翔がつぶやいた。
「結翔さん、今日は閉めましょう。さっき準備中にしたっす。」
「でもお客さんが・・・。」
駿は黙って首を左右に振った。それを見て結翔は声を出して泣いた。
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