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王の不在17
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そんな中、レクシリアとグレイを守るように立ちはだかったのは、マルクーディオだった。レースのあしらわれたスカートを翻し、両手を前に突き出した彼女が、迫りくる水球を見据えて叫ぶ。
「“堅牢たる大地の守護壁《ジウェ・ディーレン》”!」
響いたマルクーディオの声と魔力を受け、大地の一部が大きく盛り上がった。魔物が放った水塊に負けずとも劣らない高さにまで伸びたそれは、そのままぱきぱきと音を立てて硬質化する。地霊魔法による、防護壁である。
行く手を阻むその壁に、巨大な水球が凄まじい勢いと質量を以てぶつかってくる。だが、マルクーディオの造り出した大地の盾は、僅かも崩れなかった。
大地と水による数瞬のせめぎ合いののち、水塊が四方に弾け散る。地霊の盾に負けた水が、無力化されたのだ。
その事実に何を思ったのか、海の魔物が大きく咆哮して、長い尾を水面に叩きつける。
びりびりと空気を震わす叫びに、マルクーディオが表情を険しくした。先程の攻撃は防げたが、あれ以上の威力のものを出されたら、マルクーディオの地霊魔法では凌ぎきれないかもしれない。
同じことを考えたのだろうレクシリアも、ほんの僅かだが案じるような視線を妹に向ける。だがそのとき、グレイが叫んだ。
「リーアさん! 準備完了です!」
「でかした!」
グレイの声を受け、レクシリアがすぐさま弓を手放して海に向き直る。そして巨大な魔物に向かって片手を突き出した彼は、集中するように目を閉じて深く息を吐き出してから、ゆっくりと口を開いた。
「――――橙《とう》より深き石巌《せきがん》の覇者よ 全てを穿つ破壊の御手よ」
レクシリアの身体中からぶわりと魔力が膨れ上がり、迸る。そしてそれに呼応するように、足元の魔術式に置かれた鉱石たちが輝きを増し、そこから光の筋のようなものが流れ出た。細く揺蕩う光が、緩やかにレクシリアの掌に集まり、吸い込まれていく。
未明の空の下で揺れる無数の光は、まるで神秘的な儀式のような光景だった。間近でそれを目にしたマルクーディオが、小さく息を飲む。彼女が見た先は魔法詠唱を行うレクシリアではなく、その足元で式を描き続けているグレイだった。
(話には聞いていたけれど、ここまで繊細な魔術だったなんて……)
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