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頂きに立つもの8
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「……あなたが、なく、ところ、はじめて、みました……」
クラリオは王だ。だから、決して民に涙を見せない。たとえそれが自分の妻だったとしても、妻である前に民である王妃に涙を見せることはない。王にとって己と王獣以外はすべてが民であり、守るべき存在だからだ。
そんな王が、涙を流し、子供のような理屈でアメリアを責めている。アメリアは、そのことがこの上なく嬉しかった。初めて、王ではないクラリオに出逢えた気さえした。惜しむらくは、霞んだ目ではその顔をしかと見ることができない点だろうか。
だがそれでも、彼女は満たされていた。だからこそ、この世で一番幸せだという顔をして、王の名を呼ぶ。
「…………あいして、います、クラリオさま……。……あなた、を、あいして、ほんとうに、よかった……」
囁くようにそう言葉を紡いで、アメリアの身体から力が失われる。
静かに息を引き取った彼女の腹からは、いつの間にかおびただしい量の血液が溢れ、絨毯を濡らしていた。
どんなに痛かっただろうか。どんなに苦しかっただろうか。それでも彼女はクラリオを責めることなく微笑み続け、愛おしそうにその名を呼んでくれた。
王は、冷たくなった頬に触れていた手を離し、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
彼女と話している最中、頭はずっと戦場の状況を把握しており、時折助けの雷を落とすこともした。最愛の女性を手に掛けている間もずっと、並行して戦況を見定め続けた。
そして今、死んでしまった彼女を前にしてもなお、心は平静を保ち、魔法を行使し続けている。それどころか王は、彼女の死をどう扱うのが国にとって一番良いのかとさえ考えていた。ありのままに伝えるべきか、帝国に殺されたことにすべきか、ああ、葬儀は帝国との諍いが全て済んでからにせざるを得ないな。そういった考えたちが、否応なく頭に流れ込んでくる。
そんな自分のことが、殺してやりたいほどに憎かった。許されることなら、クラリオは今すぐにでも自分の喉に剣を突き立ててやりたかった。
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