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目覚め13
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迫ってくる小さな影に、『迅』が手元の針を振り上げて向かう。だが不意に、『彼』の動きがぴたりと止まった。軋んで動かなくなった機械のように手が止まったのは、『迅』の意思によるものではない。“何故か”、身体が全く動かなくなったのだ。
それに『迅』が困惑する間もなく、その顔面に向かってトカゲが落ちて来る。そして、『迅』の鼻先すれすれにまで迫ったところで、トカゲの身体が宙でくるりと回転した。
ぺちーん。
華麗に舞ったトカゲの長い尾が、間の抜けた音と共に少年の頬を打った。大して痛くはないそれに、少年が何度か瞬きをする。その瞳孔が徐々に丸みを帯び、乾いた瞳に急速に水分が戻ったかと思うと、少年がぽつりと呟いた。
「……ティ、ティア、くん……?」
くるんくるんと回転しながら落ちていくトカゲを見ながらその名を呼んだ少年は、続いて握っていた針を放り投げ、慌ててしゃがんで両手を前に突き出した。その掌に、トカゲが華麗に着地をする。
無事にトカゲをキャッチできたことに少年がほっと胸を撫で下ろしたところで、今度は横から怒ったような声が飛んできた。
「戻ったんだな! ならぼさっとするな! 魔物の下敷きになりたいのか!」
声と共に、少年の身体が抱え上げられた。アグルムである。
少年を抱きかかえたアグルムは、倒れ込んでくる魔物に巻き込まれないようにと大きく後退した。
「ア、アグルムさん、あの、僕、一体今まで、」
「黙ってろ! 舌を噛むぞ!」
叫んだアグルムが、少年の身体を後方へと放り投げた。間抜けな声を上げて地面に転がった少年に見向きもせず、アグルムが倒れ込んだ魔物の方へ駆け出す。そんな彼の曲刀に向かって、トカゲが大きく火を噴いた。最後に吸い込んだ分の種火がまだ少し残っていたのだ。
トカゲの燃え盛る炎が、曲刀の刀身に纏わりつく。疑似的な魔法憑依武器《エンチャント・ウェポン》となった刀を大きく振り上げ跳躍したアグルムは、そのまま魔物の脳天に向かって刃を振り下ろした。それに呼応するように炎の刀身が肥大化し、巨大な一振りとなって魔物の頭を割る。頭を両断され、その切り口から業火に焼かれた魔物は、悲鳴を上げる間すらなく動かなくなった。
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