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アグルム・ブランツェ8
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彼が退室したあと、部屋の扉が閉まるのをしっかりと確認したところで、薄紅の王の身体がぐらりと傾いた。そして、そのままとさりとベッドに倒れ込む。同時に、王獣もまた疲れたように、その場にころんと寝転がった。
「なんて厄介な男なのかしら……!」
苛立ちと疲労の混じった王の声に、王獣が愛らしい声で、きゅうと鳴く。まったく同意である、といったところだろうか。
「無防備になるよう努めた上で、それでも尚、あそこまで強く拒絶するだなんて。ロステアール王は自分への執着なんてないものだと思っていたけれど、とんでもないわ。寧ろ、個への執着の塊そのものよ。誰しもが大なり小なり自分自身への執着を持っているものだけれど、あれは異常だわ。……あの男、一体何なのかしら」
最後の言葉に、またもや王獣がきゅうと鳴いた。これもまた同意なのだろうか。それとも、もしかするともっと別の意味があったのかもしれない。
「……それにしても……」
小さく呟いた王が、自身の手をまじまじと見る。
「……こんなにも上手くいくだなんて、やっぱりおかしいわよねぇ。妾も初めて使ったから判らないけれど、あの魔法の成功率なんて、きっと半分もないと思うの」
薄紅の王の疑問は当然のものだった。
彼女が今回使用した魔法は、個の在り方を世界に誤認させるという、常識の枠から著しく逸脱した大魔法である。あの魔法によって、この世界には、アグルムという本来ならば存在しない筈の個が存在していることになってしまったのだ。術者である薄紅の王と同等以上の存在はさすがに惑わせないが、それ以外のあらゆる生き物が、ロステアール・クレウ・グランダをアグルム・ブランツェだと思い込んでしまう。それは何も見た目だけの話ではない。視覚、聴覚、触覚、その他全ての感覚があれをアグルムとして認識するようになり、過去を遡ってあらゆる来歴が事実として上塗りされる、まさに幻惑魔法の最高峰を極めた魔法なのだ。
だが、だからこそこの魔法の扱いは非常に難しい。個の書き換えに相当し得る魔法であるが故に、対象たる個の同意がなければ絶対に成功することはなく、同意があったところで、今回のように無意識下の抵抗が強ければ、成功率は著しく低下してしまう。
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