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共鳴7
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(……あ、)
己を無機質な存在だとする王の表情に、僅かに見えた翳り。それはきっと真実だ。少年の前でだけ現れる、王の心の欠片だ。
(そうか……)
ふと降りてきたひとつの答えに、少年はぱちりと瞬きをした。
きっと、それだけがこの人の唯一の意志なのだ。だからこそ、少年は彼を最良の王であると信じるのだ。
何も知らないくせに、思い至ったこの考えが真実であると、どうしてか確信できた。だからこそ、少年の唇が開かれる。
「…………こわい、の……?」
ぽとりと落ちた音は、言おうと思っていた言葉ではなかった。けれど、きっと何よりも正しい言葉だったのだろう。
少年の唇から零れたその声に、王が僅かに目を瞠る。そして彼は、誰も、少年さえも見たことのない表情で笑った。
「……ああ、怖いな」
素直に紡がれた声は、常と変らない柔らかな音だ。そんなことにさえ、少年の胸が締め付けられる。
「お前はすごいな、キョウヤ。言われて初めて気づいたぞ。私はずっと、怖かったのだな」
まるで新しい玩具を与えられた子供のように、王が邪気のない顔で笑う。
どうすれば良いだろうか。どうすれば、彼をその恐怖からすくってあげられるのだろうか。
少年の足りない頭では、その答えを出すことができない。けれど、王の恐怖は少年のそれととても似ている。だからこそ、その恐怖に晒されてもなんでもないことのように笑う彼を、このままにしておくのは嫌だった。だってその苦しみを、少年は嫌と言うほど知っているのだ。
「……あの、ね、」
果たして、少年の言葉にはどれほどの価値があるのだろう。もしかすると、ただの音の羅列にしかならないかもしれない。けれど、あのとき言えなかったことを言うべき時があるのだとしたら、それはきっと、今この瞬間だ。
そっと伸ばされた少年の手が、王の指先に触れる。自分よりもずっと大きなその手を包んで、少年は王の瞳を見た。
「王様じゃなくったって、あなたは綺麗だよ」
瞬間、少年の目の前で炎が弾けた。
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