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山桜
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嘉平と扇の君が交友関係を結んでから、季節は過ぎた。今や春も近い、早春の村である。
嘉平は、この高慢で華奢な、姫君の如き公達が、意外にも教養深く、世間知に長けていることを知って驚いた。扇の君の物語など聞くうちに、すっかりと感服し、いつかの日には生意気なので懲らしめてやろうなどと野卑なことを企んでいたことなど、すっかり忘れてしまった。
変わったのは嘉平だけではない。扇の君もまた、嘉平がただの純朴な青年でないことを見抜き、天晴と称賛していた。嘉平には、機転があった。新しいことや新しいものを吸収していく力があった。おまけに、狩りの腕がいい。弓が扱えて、機転が効いて、おまけに自分に心酔しているとなれば、扇の君が嘉平を取り立てて自らの護衛とし、都に返り咲いた暁には手元に置いておきたいと思うのも当たり前のことであった。
ある日、山桜を見に行った日のことだった。
「嘉平、これをやろう。」と扇の君が仰るには、太く、無骨な太刀である。
「これは、麿の家に伝わる太刀よ。嘉平にこれをやるからには、嘉平は麿の家来となり、麿が都に帰りし暁には、北面の護りとなってほしい。」
嘉平は、ことの大きさに愕然とした。自分が取り立てられる!しかも、好きでたまらない扇の君に!扇の君は、今年で十五になられていた。細く白い首は、それでもしっかりしなやかに靭(つよ)く、何処となく鷹を思わせた。この方なら本当にやるだろう。盲いていようが、追放されていようが関係ない。その時隣にぴったりと寄り添い、力で補佐するのは自分なのだ。
嘉平は、拳を地につけて跪き、もう片の手で太刀を受け取って応えた。
「宮様、おらは必ず、宮様のお役に立ちますだ。今日から木刀を千回振って、それを一年続けたらこの太刀を佩きますで、それまでに都へ戻る手筈をお整え下さい。」
扇の君は、嘉平を見た。
その力強い肩を、脚を、頼もしく思いながら、扇の君は仰った。
「ああ、必ずそうしようぞ。」
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