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卒業
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相変わらず賑やかな視聴覚室。一年から三年まで、様々な人がライブを見に来ていた。恋は毎度のことながら、今年もオオトリ、俺は視聴覚室の一番後ろにもたれ掛かりながら、コーラをのんでいた。
何故か俺の周りに人が群がってくる。みんな前に行けばいいのに、と思っていると、前の方でワアッ!!と歓声が上がった。ひとり、ひとりステージに出てくる。ドラムの吉崎さん、ベースの宮内、ギターの恋、ギターボーカルの渡辺くん、の順番で。吉崎さんと渡辺くんはなんと一年生らしい、若いなぁと思っていたら、四人が円陣を組み始めた。
あ、恋。今日のギター、青色だ。
じぃん、と胸が熱くなる。チューニングを終えた恋が「あいーーーーー!!テメェ後ろじゃなくて前に出てこい!!お前がそんなとこいたら女の子がみーんなそっちに寄っちゃうだろーが!」なんてマイクを通して言ってくるもんだから、笑いが零れた。
前に、前にね。うん、前に。
最前近くまで近寄って恋に手を振る。拳をぐっと握って手を上にあげると、恋の手には届きはしないものの、恋も拳をあげてくれた。
「盛り上がっていこーぜ!!」
渡辺くんの声が響いた。キーン!とハウリングしても気にしない、そのまま始まる、演奏。
恋の愛する、Gactのライブではないものの、恋の愛する音楽が奏でられている。俺の目は恋に釘付けで、魔法のように動く指に感動していた。ぐるんぐるんとギターを振り回す。暴れまわる恋と、宮内。頭を振って、アンプに足をかけて、汗だくになって叫んで。
楽しそう、だ。
演奏はあっという間に終わった。水分を補給した恋がマイクを握る。
「えー、どもどもー残り物ズですこんばんはー!バンドからアブれた残り物だけで結成したんだけど、オオトリもらえて感謝っつーかザマアミロっつーか?まあ満員御礼よ!サンキュー!」
あはは、と笑い声が飛び交う。
「んでんで!そんな残り物ズはこのライブで解散だーーー!だから!みんな!今までにないぐらい暴れてくれよなー!俺とあそこのガリガリは、Gactでプロを目指すことにしたから!みんなCD買えよ!あ、サインも今のうちにいえよなー!んじゃ、解散ライブ!二曲目いくぞーー!」
証明が、恋の味方をする。
どれほどまでに練習すれば、この短期間でこんなにすごい音を鳴らせるようになるのだろうか。素人目にしても上手いことがわかる。Gactとはまたちがう、腹の底にくるロックというよりはテンポが楽しいロックのそれを、聞きながら、恋を想っていた。
俺、は、半年前に、彼を責めた。
何が夢だ、と、本気で目指していた彼の首を締めた。
自己嫌悪が襲いくる。
飛び散る、汗、汗、汗、耳を支配する音、心臓を掴み取る声、鼓動が高鳴る。恋の顔が、なにより楽しそうで幸せそうで、アレが夢を追う人間の顔なのかと思うと騒ついた。
あ、
と、突然。気づいてしまった。
じっと立って、恋を見つめる。
俺と恋の温度差と。価値観の差。
あ。
と、思ってしまえば止まらなかった。
俺の夢とは。俺が目指していたこととは。夢、とはいわないのではないだろうか。あれはただ、恋の傍にいたいだけの、口実。
それゆえに、たくさん傷つけた。
俺たちの関係にヒビが入った。
もう、なおりはしない。ヒビ、が。
愛は無償であって、見返りを求めた時点で愛ではない。
夢は自分の価値であって、言い訳を思いついた時点で夢ではない。
恋の楽しそうな姿を見て、確信した。
俺は執着の塊で、恋は責任の塊だ。
譲歩しあった関係、いつまで続けるつもりでいたのだろう。
いつまで俺は、恋の夢を、殺すつもりでいたのだろう。
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