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碧(※R-18)
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頬を伝う汗、輪郭の濃くなった影に、張り付いた前髪。例年より早い梅雨明けに本格的な夏の日差しが追い打ちをかけてきて、堪らず2人で音を上げる。
「いやあちぃ〜〜〜」
「わかる。こう暑いともはや騒ぐ気力もない」
「それな!俺たちなんか悪いことした〜?」
自転車をぎいぎいと鳴らしながら押す日向を横目に、自然と歩幅を合わせる。高校に入ってはや2年、チャリ通の日向は毎日俺と帰る為だけに夕方はペダルをお留守にする。が、特にこれといった中身のある会話をする訳でもなく。
「……なぁ。たまにはさ、あそこの駄菓子屋よってかね?そんくらいの金ならあるべ」
先にこの沈黙に飽きたのは俺だった。
「……あぁ、あそこか。そうだな、久しぶりにばあちゃんの顔も見たい」
「やりぃ!そうと決まればとばすぞ日向ァ!」
「あっま……バカ!走ると余計暑いだろ」
そう言いながらも、困ったように笑いながら俺の後を律儀に走って追いかけるアイツがおかしくて仕方がない。いやそれ!その手の中にあんのはなんだ?チャリだろ!使えよ!
「ぶっククッッ…お前やっぱ最高だわ」
「はぁ?……変なやつだな、おいてくぞ」
そんなふうに戯れながら歩いていたら、ばあちゃんの駄菓子屋なんかあっという間だ。こんな田舎唯一の俺らのオアシス。木陰になっててちょっと涼しいのもまたいいのだ。
「ばあちゃーーん!!おひさ!!」
「おいこら直人、お久しぶりですだろうが」
「おひさしぶりでーす!」
ばあちゃんは煩い俺たちにも怒らずに、それどころか目を細めて歓迎してくれる……まあミケは膝の上でブチ切れてっけど。
「あらあら、よく来たねぇ。日向君なんかはまた身長が伸びたんじゃない?」
「あ、アザッス。今186ッス」
「ばあちゃん!俺は俺は?!」
「あら、直人くんも……」
「えっなんで黙んの??ねぇ???ばあちゃん???」
暫くぶりなのもあって話題は尽きないが、お客は俺たちだけじゃない。特にこの猛暑だ、汗だくの高校生は次々とここに足を止めていく。あんまり邪魔しちゃ悪いだろう。店の中を見渡して、にやり。
「……日向ぁ、もう決めた?」
「ああ。……直人は?」
「……せーのっ!」
俺の言葉を合図に、2人して同時に、それも同じサイダーに手をかける。ゴツゴツした日向の指が思いのほか熱かったから、思わず心臓が跳ねたことには気付かないフリをして心の中で今だけ夏の暑さに感謝した。
「なんだよ、同じのとるやつがあるかよ〜」
「こっちのセリフだ。ほらさっさと買って出るぞ」
「へいへい、分かってるって」
ぽたぽたと水滴を零すサイダーのおかげで少しだけ熱がひいていく。小銭をちゃりちゃりならしてピッタリ95円、名残惜しくもばあちゃんとミケに別れを告げ、着いてくる影と共にてくてくと歩を進める。ごくごく喉を鳴らす日向に続いて俺も慌てて喉に炭酸を流し込むと、思ったより重くなる腹の中。実を言うと、炭酸はあまり飲まないのだ。
「……なあ日向、お前ほんっとうまそうに飲むのな!CM出れんじゃねえの?」
「そうか?普通だろ」
「あーあ、イケメンは格好良いから何しても様になるってか?」
軽口の中に交ぜる、俺のキモチ。さり気なく吐き出さないと、どんどん溜まってって苦しくなるばかりだから……ちょうど、炭酸を孕んだこの腹みたいに。
「ごぷっ……なははァ!」
「おいきたねぇ」
「ンフッ、いやごめんごめん」
「ったく……」
わざとらしく眉根をひそめてるけど、若干ウケてんの気付いてんだよな〜。生真面目なくせに、割とこういうくだんないのがツボなの好きだわ。てか、勢いよく飲みすぎて口の端から溢れてんじゃん。
「エロっ……」
「は?」
あっやべえ口に出てた。
「エロ本の見すぎじゃねえの」
「るせっ!!むっつりスケベの日向君よかマシです〜!!」
「おいこら誰がむっつりスケベだ」
いやでも、こんなんエロいだろ。でこに引っ付くのが鬱陶しいのか、俺とは違ってまっくろな髪をかきあげて、項の汗が光る糸みたいに落ちてって……ネクタイ緩めてんじゃねえよ、ばか!好きな子の鎖骨がどれだけ健全なDKの目の毒なのか知らねぇのか!!……もう一度、俺にでは無く瓶に口付けするコイツを睨んで二口目。
「あぁ、そういえばこの前……直人?」
「へぁっ」
急に名前を呼ばれて、思わず間抜けな声をあげる。ふと目を離した隙にコイツは、何故かめちゃめちゃ近づいていたようだ。
「顔、めっちゃ赤いぞ。俺の分も飲むか?遠慮すんなよ」
不意に覗き込まれて、日向と……もっと言うと、日向の目の中の真っ赤な俺と目が合う。確かにこれは心配されるわ……はず、かしい。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「お〜甘えろ甘えろ。なんなら家来るか?冷房つけるし。……いや来い、そろそろ倒れる」
いやコイツめっちゃ勝手に決めるな?なんだ??俺のこと好きなのか??なんて、ぐるぐるあるはずもないこの後を期待をしてしまう己の強欲さにもう1人の冷静な自分が呆れたように笑っている。が、そんなの無視して手渡されたサイダーで喉を濡らした。
「っぷはぁーー!いやぁ、生き返りますなぁ」
「それは何よりですなぁ。……もう大丈夫そうか?」
「ん、アリガト。てかなに?今日すげぇやさしーじゃ〜ん。さては、おれのことすきになったな?まあまあ、気持ちはわかるケド〜」
「……」
あれ、無視された?あ、呆れられたのかなぁ。そう思うと急に不安になってきた。
「ひゅ、日向……?」
「…………」
「え、手ぇめっちゃ震えんてんじゃん!どした?……そんなに嫌だった?ごめん……」
「………………」
あ、やばい、なきそう。うわミスった、言わなきゃ良かったあんなこと。……あるはずないのは分かってたじゃん……俺のばか。
「あ、あの俺やっぱ帰」
「いつから」
「へ?」
い、いつから?何が?
「いつから、気付いてたんだよ……好きなの」
「いつからっていや、ッえ?!」
突然の展開に理解が追いつかない。ただ、さっきまでの暑さを思い出したように頬を紅潮させてるコイツを見たら、少なくとも冗談でないことは伝わった。すごく。
「……ほんとに、?ひゅーが、ほんとにおれのことすきなの?」
「……」
少しカタブツなところがあるこの男は、こくっと首を1回縦に振るだけで、一言も発しようとはしない。……ただ、じわじわと現実を受け止め始めたら、一気に嬉しさと照れくささが襲ってきて身動きひとつとれなくなる。さながら天敵を前にした小動物だ。
「直人は」
「えっ、あぅ」
「そんな顔されちゃ、期待しちゃうだろ。嫌だったなら早く否定しろ」
「し、しない。否定しない……うれしい」
あ、また恥ずかしいこと言っちゃったかも。うああああまた黙っちゃったし!もうどーすればいーんだよー!日向もなんか言えばか!
「な、なんかいえよぅ……」
そう言いながら、ちらりと横を盗み見る。降りてきた前髪が薄く目にかかって、鼻筋の通った横顔の端正さが強調されている姿を見ていたら、さっきまでの照れくさなんか忘れて見とれてしまう。
「って、なんでそんな汗かいてんだよ」
耐えきれずふはっと吹き出すと、それが気に食わなかったみたいで余計に不貞腐れるのが愛らしい。……両思いになったみたいだし、ちょっと大胆になってみてもいいかななんて思って、彼を流れる星屑を口に含んでみた。
「?!何してるんだよっ……!」
「にゃはは、ほんと何してるんだろ〜な……。でももう俺のなんでしょ?違うの?」
「俺のって……告白もまだなんだ。あんまり煽んなよ」
ふいっと顔を逸らす日向に、そういえばまだ告白してなかったことを思い出した。両思いのフレーズに舞い上がりすぎた。もしかして、コイツはトモダチを続けたかったりするのだろうか。女々しい俺はそう思ったらまた急に不安になってきて、日向の視線の先を追う。
「……ひゅうがァ〜、結構カワイイとこあんじゃん」
「はっ?!なんだよ急に」
……もしかして気付いてないのか?親切な俺はによによと上がりきった口角を隠すことなく指を刺しながら教えてやる。
「トラックのサイドミラー。真っ赤なのバレバレ」
「ッ……!!」
そう言われて焦る日向と鏡越しに目が合った。横井のじいちゃん(のトラック)アリガト、あとでオクラ持ってくね。
「…………」
「まぁまぁ、そんな照れんなって〜!」
「………………」
「こっち見て見ろよ〜なぁなぁ♡」
「…………………」
「人と喋る時は目ェ合わせるのが礼儀だろ〜なぁな」
「……うるさい」
睨みつけながらグイッと引き寄せられて、言葉ごと噛み砕くような乱暴なキス。……キス?!
「えっ、ひゅーが……」
「付き合ってください」
「じゅ、順番が逆だろ日向のばか!」
腹立たしくて、でも嫌じゃなくて嬉しくて。でもやっぱりちょっと腹立って抗議の意味を込めててしてしとほっぺに手のひらを当てる。それ以上顔近づけんな!
「今のは直人が悪いだろ。俺は悪くない」
「えなんで!俺こそ悪くないだろ被害者だろ!」
「被害者って……」
顔に押し付けてた手が片手で取り払われる。両手を掴む日向の片手には心做しか力が入っているようで、浮き出た血管に男らしさを見出して胸が高鳴るのには気付かれていないようだ。
「じゃあなんだ。キスするのは加害か?そんなに嫌だったのか」
「えっいやそういうわけじゃない!むしろ……」
「……むしろ?」
そう言う日向の瞳は冷たくて、でも余裕そうに微笑んで続きを促す。
「えっ、えと……」
「ん?」
「あぅ……」
これ、もしかして言わなきゃいけない流れ?……頭の良いコイツには、ここまで計算の内だったのだろうか。
「むしろ、嬉しかった……」
「……ふはっ、偉いな、よく言えたなぁ」
「なにっ……んむ」
もう1回、今度はさっきより少し長いキス。コイツ調子に乗ってんだろ腹立つな、なんて思ってたら耳を掠めたのはいつもよりうんと低い雄の声。
「……ご褒美」
「ひぅっ♡」
あつい吐息と共に大好きな声でそう囁かれて、ついつい甘い声がもれてしまい慌てて口を手で覆う。
「何だその声。煽ってんのか?さっきから……」
「う、るさい……!ばか、ここ外なんだぞ、はなせよ……!」
「可愛いなぁ……それで、返事は」
へ、返事?なんだっけ……ああ、そうだ。おれ、告白されたんだった……。思い出して、改めて結ばれることへの嬉しさで小さく身を震わせる。今度は日向の耳元で、こしょこしょと小さい声で仕返しするように囁いた。
「……うれしい、よ。付き合お?ひゅうが……」
「…………やっぱ家来い、直人」
エアコンのスイッチの高い音が響いて、彼氏の家にお邪魔していることを再確認する。友達としては何度か上がったことがあっても、恋人の部屋だと思うと無条件で意識してしまって、膝の上で握った拳に力が入った。そんなにガチガチにならなくても、とお茶を入れてくれた日向に笑われて、緊張してるのは俺だけなのかと思うと顔に熱が集まっていく。
「……直人」
いつものようにベッドに腰掛けていただけなのに、日向の目にはいつものような爽やかな光はない。思わずぎゅっと目を瞑ると、ふっと笑ったような声が聞こえたあとに唇が重ねられて、本日何度目かのキス……今日まで、ファーストキスもまだだったのに。少しづつ押し倒されていくのが分かって、思わずシャツの胸元を掴む。頭を打たないように配慮してくれたようで、大人しく重力に従ってセミダブルのベッドに男2人が収まった。
「ひゅ、が……んむっ?!」
唇を舐められたことに衝撃を受けて肩が小さく跳ねたことが恥ずかしい。軽く睨みつけると、目で口を開けと命令される。恐る恐る口を開けながら、俺Mなのかもしれない……なんて思った。言わないけど。
「直人……」
「んっ、ちゅ……ちぅ」
「……必死すぎ。かわいいな」
「ッふ、う……あむ」
何だかずっと余裕がないのは俺だけみたいで、さっきから舌を受け入れるのに精一杯なことを嗤われる。冷房が入っているというのに、お互いの舌の熱さと自分たちのリップ音が聞こえることへの羞恥で息があがって、頭がくらくらするくらいだ。
「……ひゅ、がぁ……もっと……ひっ?!あっ、あん♡」
「……さっきから煽んなって何回も言ってんだろ。もう十分我慢したから、お前が悪いぞ」
「あたっ、てる……ひゅーがッあつい♡」
押し付けられた熱に、余裕がないのは俺だけじゃないことを悟る。それが嬉しくて、なにより揺さぶられるのが気持ちよくて、日向に合わせてかくかくと腰が動いてしまう。さっきまでの恥ずかしさなんか忘れたチョロい俺は、もう既に抱かれたくて仕方がなくなった。……もう一押しなことは目が雄弁に語っていたから、首に手をまわしておねだり。
「んっ、ふぅ……ッきもちぃ♡ひゅうがの……お゛っ?、♡しょこ、だめっ、だめ♡」
ぐりぐりといいとこを擦る質量に甘ったるい声がもれるのをもはや隠す気もなく、YESの意味をこめて微笑んだ。
心地よい微睡みに浸りながら、アラームを止めて階段を降りていく。カーテンから覗く6月の碧にはこの曲がピッタリだろうと、お気に入りの曲を口遊ながら。
「いーろみーずーになってく〜♪あーまいあまいそれは〜♪」
顔を洗う為に洗面所に向かって、昨日の熱に浮かされた左右反対の俺にご挨拶。開き切ってない目を冷水で流したあと、
「なにこれ?!」
……自慢じゃないが白い肌には、不相応な赤い花弁が首元に散っていることに気がついた。ああ、今日はシャツの首元閉めなきゃな……。リビングでは、今日の最高気温を伝えるアナウンサーが、いつものように熱中症に気をつけるようにと笑っていた。
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