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四章 4
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「あら、お帰りぃ」
「ただいま。ごめんね、待たせちゃって」
ニコライを担当していた女性の看護師が病室から厨房へ戻ると、たくさんの女性がそこで作業をしていた。
この基地で食事の支度をするのは調理師だけではなく、看護師も手伝うのだ。看護師は主に火起こし、水汲みといった神通力を使った仕事をする。
厨房に入ってきたその看護師に、フワフワした銀髪の可愛らしい天使が近づいてきた。
「ナターシャ、帰ってきたんだ! 水汲みに行こうよ」
彼女にナターシャと呼ばれたニコライの担当の看護師は振り返る。
「えっ、まだ誰も行ってないの?」
「一人だけさっき行ったけれど、まだ足りないと思うの。ナターシャは看護師一番の水使いでしょ?」
「誉めても何も出ないよ。わかった、行こう」
そして二人は水を汲みに厨房を出た。
二人が行くのは、雲海。見た目は人間界で見られるそれと言って差し支えないが、そこには魚のような生物も住んでいるのだ。
天界の地面は雲土(うんど)と呼ばれ、天使達はその上で生活をしている。
雲海に底は無い。その奥深くは暗黒の、未開の場所なのだ。雲海は濃霧のようで、そのままでは使えないが、水を操る神通力によって清らかな水へと変えることができる。
基地から歩いて十分程度のところにある雲海へと、2人は基地を出た。
「それでそれでぇ、またヴィノクール特務曹長のところに来たんだよね、クルツ伍長。しかもこんな朝早くに!」
雲海に向かう途中、友人のフワフワした銀髪を持つ看護師にそう言われたナターシャ。
「そうそう! それでねぇ、すっごくイイもの見ちゃったんだぁ」
「えっ、何~~?」
「あの2人、おでこ合わせてたの~~。一瞬キスするのかと思っちゃったよ!」
「何それぇ! めっちゃ可愛い!」
そんな話をする二人の顔は物凄く楽しそうだ。
銀髪の看護師は、やや顔を赤らめて口を開く。
「昨日はヴィノクール特務曹長、クルツ伍長の服掴んで寝てたんでしょう? 絶対あの二人普通の友達じゃないよね!」
「あの特務曹長があんなに気を許すなんて……クルツ伍長は特務曹長の何なの?!」
「そういえば、二人に恋人いるのか聞き出せた?」
「うん、今は二人ともいないって!」
「ええっ! 特務曹長はかなりの美形し、伍長だって背高くて結構格好いいのに……」
「クルツ伍長は昔いたようだけれど、特務曹長は今まで一度もいたことがないんだって!」
「そうなの?! 確かに特務曹長は綺麗過ぎて近寄りがたいかもしれないけれど……うわぁ、怪しい!」
勿論二人は、ニコライとレオは唯の幼馴染みであると分かっている。それでも二人に男色の関係があることを期待せずにはいられなかった。
ナターシャにとっては、ニコライの担当看護師というのは二人を知る絶好のチャンスだった。
「クルツ伍長、特務曹長のことニーカって呼んでるの!」
「ニーカ? コーリャじゃないんだ~~。何か意味があるのかな?」
「気になるよねぇ!」
「ナターシャ羨ましいなぁ! でもクルツ伍長って、ダニロフ軍曹とも凄く仲良しだよねぇ。いっつも一緒にいて」
ついにディーマにまで及んだ銀髪の看護師の妄想。
それに頷くナターシャ。
「一応上司と部下、先輩と後輩の関係にありながらあの接し方、何なのか気になる!」
「これはクルツ伍長総受けの予感?!」
「えっ? 誰もあの人は押し倒せないでしょ! あんな背高いのに」
「何言ってるの~~、クルツ伍長の階級は三人の中では一番下! 噂では神通力の扱いも下手らしいんだから!」
「でもクルツ伍長とダニロフ軍曹とか、いい身長差だと思うんだよねぇ。下克上とかいいじゃない」
「え~~、時代は男前受けだよぉ! 特務曹長×伍長!」
「……軍人に男前じゃない人なんているの? みんないい体してるよ」
カップリング論争を始めたところで雲海に着き、二人はその会話を打ち切った。
白い海岸に白い海、青く広がる大空。朦朧としたような白と青の、美しい世界。
先に海岸にいた看護師が二人に近寄ってきた。彼女は後輩の看護師だ。
「ああ! やっと来てくれましたか~~。私一人じゃどうしようかと思いましたよ」
神通力の扱いが上手く、美人でしっかりものの看護師。それがナターシャの〝表の顔〟だ。
駆け寄ってきた彼女に、笑顔で答えるナターシャ。
「そんなわけないじゃない。疲れたでしょ? あとは任せて」
その麗人の笑みに、後輩の天使は思わず見惚れそうになり、慌て返事をする。
「は、はいっ! よろしくお願いしますぅ」
「それで、何リットルくらい基地に送ったの?」
「えっと……五リットルくらい……」
「じゃあまだまだね」
ナターシャとフワフワした銀髪の天使は、彼女の横をすり抜けて雲海に寄る。真っ白な雲土と、それよりも透明感のある雲海。その堺まで二人は歩いた。
「やるよ」
「了解、ナターシャ」
そして二人は、同時に唇を開いた。
「操・雲海」
途端、二人の前の雲海が直径三メートル程の渦を巻き始めた。彼女達は雲海のから水を作り出し、基地にあるタンクに送っているのだ。
言語を発することによって神通力を使う、基礎神通力。軍に所属する看護師ならばこれで最低でも火か水のどちらかを操ることができる。
水を溜め、火を起こし、電気を生産し、朝食を作る――それがレキア東方旅団にいる非戦闘員の朝の仕事なのだ。
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