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その夜、部屋には全員が現れた。いつも通り、千明の足元にナイフの入ったバッグが置かれる。
やはり帰らせるなんて嘘だったのだろうか。ここで殺されるのだろうか。千明は男に目をやるが、男はいつもの何も語らない表情で突っ立っている。
憔悴した千明を見て、深田は「最期に望みはありますか」と尋ねた。
「食べたいディナー、家族への伝言、できることはやりますよ」
全て話せば生きて帰れますけどね、と付け加える。
ああ、殺されるのだ。千明は体の力を抜くように深くため息をついた。ひどく落胆した。彼にも、安易に人を信じた自分にも。
「セックスがしたい」
千明の発言に、その場にいた全員が唯一の女に目をやった。
女は眉を寄せ、「勘弁して。わかった、売春婦を呼ぶ」と叫ぶように言う。
千明は「いや」と言い、
「その男」と、視線を一点にやった。
目を向けられた男が戸惑った表情を浮かべる。こんな状況で、殺されかけているというのに、自分が優位な立場のように思えて笑えた。
「それでいいのか?」深田が同情するような顔を向けた。
「いいじゃん。跨ってやれよ」欧米人が愉快そうな顔をして指図する。
「うるさい」
男が中国語で言い、しばらく千明の目を見つめた。その目の色が変わらぬことを確認して、ジャケットをその場に脱ぎ捨てた。
「出ていけ」
男は、今度は英語でその場にいた全員に向けて言い捨てる。
ふたりきりになった部屋で、男は千明の拘束具を解きながら話した。
「何か考えがあるのか? セックスがしたいって、まさかそのままの意味じゃないよな」
男は千明を見上げる。千明の真面目な顔を見て、男は冷静な表情を崩した。
「……本気か?」
拘束を解かれた千明が床に倒れ込む。男のジャケットの上に寝転び、手足を伸ばして深く深呼吸をすると、涙が出そうなほど幸福感に包まれた。
「本気だよ。君が嫌じゃなければ」
「……果てると同時に死ななければいいけど」
男は下半身の衣類を脱ぎ捨てる。そして千明の下着を脱がせた。
あの夜のように丁寧に愛撫され、口に咥えられ、千明は吐息を漏らした。その間、男は自分で自分の穴をほぐしているようだった。
あの夜、この先は記憶がない。最後まではしていないのかもしれない。聞いてみようかと口を開いたが、やめた。
穴にゆっくりと自分のものが入っていく感覚に、千明は震えた。
細くありながら鍛えられた体に手を添える。男の顔は、恍惚を浮かべていた。
「……名前を教えて」
「———リー・ジン。本名だよ」
千明は微笑んだ。ジン。君はずっとそんな名前だったんだな。
腰を動かすとジンは声を漏らした。腰を掴んで突き続けると、快感に耐えられず千明の胸に倒れ込む。反動で千明のものが抜けた。
「はぁっ……は、ぁ」
ジンを寝転ばせ、今度は千明が優位の体勢になる。良いのか悪いのか、ドーパミンのおかげで体の痛みを感じなくなっていた。
ジンはクールな顔つきを崩し、激しく喘いだ。
「……ぅ゛……あ、ッ……は、あ……」
「綺麗だ」
千明はジンの頬に唇を落とした。ジンの赤い瞳が揺れる。
「君は……」
ジンはそう言い、千明の頭を引き寄せて唇にキスをした。
千明は両手をジンの首にかけた。細い首が脈打つのが手のひらに伝わり、体がぞくりと震える。
一瞬、ジンの表情が歪むのが見えた。
「ごめん」
ごめん、ごめん。君のことを、信じられない。千明は指に力を入れる。
ジンは千明の手に触れる。しかし抵抗はしない。潤んだ瞳を千明に向けたまま、薄く口を開いた。
「……本棚の、上だ」
か細い声が耳に届き、瞬時に手を離した。ジンは肩を揺らし、大きく深呼吸する。
千明は本棚の真上の天井を見上げ、もう一度彼に目を向けた。
「パスポート、僕のジャケットの中だ」
彼の言う通り、ジャケットからはパスポートと財布が出てきた。
千明は立ち上がり、本棚の上によじ登った。天井を外して頭を突っ込むと、遠くに四角い灯りが見えた。車の走る音が聞こえる。
室内に視線を戻すと、千明を見上げるジンと目が合った。
「信じて」
そう微笑むジンを背にして、千明は天井裏へと登っていった。
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