アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
本編
-
おとぎ話のお姫様なら魔法が解けたとしても王子様に愛してもらえる。
でも、僕は魔法が解けてしまったら彼の前に姿を晒すことすら出来ないんだろうな。
僕には好きな人がいる。第一王子であるレオン=ハーツ様だ。子爵家の出である僕にとっては雲の上の人。
レオン様を好きになったのは、十二歳のとき。その日、可愛いものが大好きな僕は、ショーウィンドウに飾られた兎のぬいぐるみを見つめながら涙を流していた。
「どうして泣いているんだい?」
そんな僕に話しかけてくれたのが、当時十五歳だったレオン様。
その時はまだ、彼が王子様だなんて知らなかった。
「男の子が可愛いものを好きなのはダメなんだって……」
数日前、街に住む同い歳の子供達に言われた言葉を繰り返す。流れる涙を純白のハンカチで拭ってくれた彼が、少し待っていて、と言ってお店の中に入っていった。
数分程して、見覚えのあるぬいぐるみを腕に抱えたレオン様が戻ってきた。ぬいぐるみを手渡されて、思わず目を瞬かせる。
「よく似合う」
「……っ、ほんとう?」
「本当だよ。君が兎さんを好きなように、兎さんも君のことが好きだと思うな」
向けられた笑みと言葉に胸を鷲掴みにされたんだ。僕を肯定してくれる優しい彼に心を奪われた。
レオン様と話したのはその一度きり。でも、十八歳になった今もあの日のことを忘れたことはない。
けれど、僕はレオン様に思いを伝えることすら叶わないだろうな。だって、身分差があるうえに、男同士だから。近年では同性婚も公的に認められ始め、貴族の中にも同性婚をする人達を目にすることは増えていた。だからといって、周囲に受け入れられるとは限らない。
それに、レオン様の歴代の恋人と噂される人達は皆女性で、彼に男色の気がないのは噂を聞くだけでも理解させられる。
(……諦めないと)
僕もいい歳だ。そろそろこの恋にもケジメをつける頃合が来ている。
自室のシングルソファーに腰掛け、テーブルに置かれた招待状を手に取った。中を開ければ、第一王子であるレオン様の、生誕を祝う催しが行われる項が書き記してある。
これがきっと最期の機会だ。パーティーは明日。思いは伝えられなくとも、一目でいいからレオン様の姿を見たい。そうすればこの長い初恋にも終止符を打てる気がする。
パーティー当日、クローゼットの中を見つめながら一般的な紺色のスーツを手に取った。数秒見つめたあと、またクローゼットに仕舞うを繰り返す。
男として彼の前に立ち、この思いを伝えたい。でもその勇気が今の僕にはなかった。スーツの隣に置かれた一張羅のドレスを恐る恐る手に取る。
亡くなった母が生前、嫁入り道具として持ってきた一着で、質もいい。薄紫にブルーのグラデーションが入ったAラインドレス。胸元はスッキリと、品よくフリルがあしらわれ、全体に散りばめられた星屑のようなスパンコールが照明に照らされてキラキラと輝いている。
夜空をそのまま閉じ込めたかのような美しさだ。
「……これにしよう」
好きなものを好きだと言ってもいいのだと教えてくれたのはレオン様だ。だから、ありのままの自分で彼の前に立ちたい。それに、どうせ一夜限りなら彼の隣に立てるような美しい女性でいたいと思った。
たとえそれが偽りだとしても。
鏡に映る黒髪に紫の瞳を持つ女性を見つめながら、口元に笑みを浮かべてみる。ドレスに合わせた、少し控えめの化粧。元々中性的な顔付きのために、化粧を施せば男だとはわからないだろう。それに、引きこもりで、あまり子爵家からは出ないから周りに僕だとバレることもないと思う。
輝くドレスを翻しながら馬車に乗り込む。父は仕事人間で屋敷に帰ってくることは少なく、僕がこんな姿をしていることなんて知らないだろう。三人しか居ない使用人は、皆僕の趣味を知っているから、温かく見送ってくれた。
会場に着くと、馬車の中で一度大きく深呼吸をする。緊張で足が竦むけれど、意を決して馬車から降りた。
周りから浴びせられる視線が痛い。どこか変だろうか……。男だとバレてないかな……。
不安な心を紛れさせるようにキツく握りこぶしをつくる。
辺りを見渡せば、既にレオン様の周りに人だかりが出来ていることがわかった。久しぶりに見るレオン様は相変わらず格好良くて、鼓動が跳ねる。銀にも見えるプラチナブロンドの髪に、スカイブルーの瞳はまるで宝石のように美しい。
近くに行きたいけれど、遠目から眺めるだけに留める。今日はただ、こうして遠くから彼のことを見つめていよう。そうやって彼への想いを消化し、先に進まなければ……。
「お一人ですか?」
ちびちびとノンアルコールカクテルを口に含みながら、ぼーっとレオン様を見つめていたとき、男性に話しかけられて動きを止めた。
見知らぬ人だ。彼は完全に僕のことを令嬢だと思っている。
「よろしければ、お話しませんか?」
よく使われる誘い文句に、口元がひくつく。男性の瞳に宿る熱に気がつくと、とたん怖くもなってきた。ずっと屋敷に引きこもっていただけに、人との上手い接し方もわからない。
「あ、あの……」
「さあ、こちらへ」
少し強引に腰を引き寄せられる。同じ男なのだから、拒否くらいしたらいいのに、それすら頭が真っ白で出来そうになかった。
「すまない。彼女は俺と踊る予定があってね」
困っていたとき、柔らかな声音がこちらへと飛んできて、僕も男性も視線を声のした方へとむける。
ゆったりとした動作で目の前まで歩いてきたのはレオン様だった。一瞬で体温が上昇する。柔和な笑みに釘付けになった。僕の中のレオン様は十五歳で止まっていたけれど、今、僕の中の時が動き出した気がしたんだ。大人の男性へと変貌を遂げたレオン様は、至近距離で見ると色気すら漂わせているように感じる。
「これはっ、貴方様の御相手とは知らず……。失礼いたしました」
「かまわない。楽しんで」
立ち去っていく男性が離れたのを見計らい、レオン様が僕の耳元に顔を寄せてきた。
「怪しまれてしまう。今は俺に合わせて」
手を引かれて、会場の中心へと躍り出る。音楽が流れ始めると、輪のようになった人々の中心で二人きり踊り始めた。
「名前を教えてくれないかい?」
問いかけられて悩んでしまう。本名を言ってしまえば、僕が男だとバレてしまうから。
「……エルです」
本名のダニエルから取って、エル。
「エル、美しい君にぴったりの名だね。ダンスは好き?」
また、尋ねられて視線をさ迷わせた。
「ダンスは苦手で……」
レオン様にだけ聞こえるように伝えれば、クスリと彼が一つ笑みを零した。
「俺に任せて」
優しく抱き寄せられて、そのままくるりと身体を回転させられる。優雅で、それでいて大胆なダンス。鼓動が刻むリズムと軽やかなステップが重なる。
楽しくて思わず笑みを浮かべると、レオン様も白い歯を見せて笑ってくれた。それが嬉しくて、まるで本当におとぎ話のお姫様になったような気分になる。
「どうして助けて下さったのですか?」
「先程の彼はプレイボーイだと有名なのだけれど、公爵子息という立場上断ることが出来ない子が多いようなんだ」
なるほど……。公爵子息を止めることが出来るのは、この場ではレオン様だけだ。だから助けてくれたんだ。本当に優しい方。
「ありがとうございます。困っていたのでとても助かりました」
「かまわないよ。それよりほら、こっちに集中して」
音楽は終盤に差し掛かり始めた。周囲に見られていることなんて忘れて、この時間をめいいっぱいに楽しむ。
隅っこで見つめていられればよかった。でも、今はもっと彼のことを知りたいって思い始めている。ぬいぐるみを差し出してくれたときと同じ優しげな表情を見つめながら、時が止まればいいのにって、傲慢な考えを浮かべる。そうすれば僕だけがレオン様を独り占めできるから。
音が止まると共に、夢のような時間も終わりを告げた。
未だに激しく胸が高鳴っている。このまま思いを伝えられたなら……。そう思うのに言葉は出てこない。でも、その方がいい。
最後に楽しい思い出が出来たと割り切った方が諦めもつく気がするから。
「レオン様。私、今とっても幸せです」
精一杯の笑みを浮かべて伝えると、レオン様が驚いたように目を丸くさせる。その顔を見つめながらカーテシーをして制止の声も聞かずにその場を立ち去った。
会場を出て、夜空の下を進んでいく。キラリと一つ流れ星が見えた気がして足を止めた。
(叶うなら、レオン様が今日のことを忘れないでいてくれたらいい)
願いながら、背後へと視線を向ける。
誰も僕のことを追いかけは来ていなかった。
パーティの後、僕はまた引きこもりの生活に逆戻りしていた。だから、逃げ帰ったあとどんな状況になっているのかはわからない。
「ダニエル様もうお外には出られないのですか?」
メイドのクララに尋ねられて、どうしようかと悩む。外に出るのが嫌いな訳ではない。ただ、自分の趣味を理解してくれる人間を探すことは難しく、人付き合いが億劫になってしまっているだけだ。
「……行きたい所があるんだ」
でも、変わりたいと思う。パーティーが終わったら、レオン様への気持ちに終止符を打つと決めていた。だから、最後に彼と初めて出会ったお店に行ってみようと思う。
「準備をいたしましょう」
「うん、ありがとう」
支度を整えると、街へと向かう。今日は女装はしていない。本当の姿で過去に終止符を打ちたかったからだ。
街に着くと、店の並ぶストリートを歩きながら、ふと窓ガラス越しに自分の姿を見つめてみた。黒髪に金色の瞳の少年が映っている。中性的な顔立ちと華奢なこと以外は、普通の男。女の子になりたいと思っているわけではない。ただ、お化粧や可愛いものが好きなのだと堂々と言える自分でありたかった。
お店に辿り着くと、一度深呼吸をしてから扉を開けた。カラリとベルの音が鳴り、店員さんが挨拶をしてくれる。
女性向けの雑貨やぬいぐるみの並べられた棚は見ているだけで心を癒してくれる。手頃な広さの店内を一周見て回ると、隅の方に見覚えのあるぬいぐるみが置かれていることに気がついた。レオン様がプレゼントしてくれたものよりも一回り小さな兎のぬいぐるみ。
自然と笑みが浮かび、思わず手に取ってしまう。
最後の思い出に購入しようと決めて、支払いを済ませようと身体を反転させたとき、店内にベルの音が響いて、入口へと視線を向けた。
美しいプラチナブロンドが揺れている。
「……レオン様……」
思わず名前を呟いてしまう。慌てて口を噤むと、彼がこちらへと歩いてきた。
「俺のことを呼んだかな」
「あ、あの。驚いてしまって……。ごめんなさい」
「かまわないよ。そのぬいぐるみ好きなのかい?」
レオン様の視線の先には、僕の手に持たれた兎のぬいぐるみ。好きだと頷けば、ふわりと笑みが返ってきた。
「俺も好きなんだ。昔、可愛らしい子に出会ってね。その子もそのぬいぐるみが好きで、手渡すと喜んでくれた」
胸が高鳴る。それってもしかして……。
「……そうなんですね。今日はどうしてこちらに?」
「贈り物をしたいご令嬢がいるんだ」
跳ねていた心が途端動きを止める。
ご令嬢のことを思い浮かべる彼の眼差しが、とても優しくて、愛おしさで溢れている気がしたからだ。バレないように拳を握りしめる。
こんなことで傷ついてちゃダメだ。諦めるって……前に進むって決めただろ。
自分に言い聞かせる。
「きっと喜んでもらえると思いますよ」
「そうだろうか……。実を言うと彼女がどこの誰かもわからないんだ。探しているけれど見つけられなくてね」
「……失礼ですが、その方とはどちらでお知り合いに?」
「先日、俺の生誕祝いのパーティが行われただろう。そこで、絡まれているところを助けたんだよ。ファーストダンスを共に踊ったというのに、名前すら言わずに立ち去ってしまった……」
また、少しずつ心音が早くなっていく。
彼とファーストダンスを踊ったのは僕だ。つまり、彼は僕のことを探している?
「引き止めてしまって申し訳なかったね。買い物を楽しんで」
「そっ、そんなことないです。あの、僕も一緒に贈り物を選んでもいいですか?」
期待するなって心の中の僕が警告してくる。それでも、動き出した心音を止められないように、僕のこの思いも今は止められない気がした。
「助かるよ」
笑いかけてくれるレオン様に笑みを返す。彼とこうして話をしていられるだけで、幸せだと思えるんだ。
僕の笑みを見たレオン様が数回瞬きをしてから、顔を近づけてきた。
「ど、どうされたんですか?」
自分でも顔が赤くなったのがわかる。
じっと、顔を見つめられて、恥ずかしさに眉を寄せた。
「君に姉か妹はいるかい?」
「え?いえ……いません」
なぜそんなことを尋ねられているのかもわからずに首を傾げる。僕は一人っ子だ。返事を聞いて、少し考える素振りをしたレオン様はすぐに顔に笑みを戻して、
「変なことを聞いてしまってごめん」
と、言いながら近くのぬいぐるみを手に取った。
そこからは、たわいの無い話をしながら二人で贈り物を選ぶ。なぜか、レオン様は毎回、僕に「これは好き?」って尋ねてくる。律儀に返事をしながら、内心で何度も首を傾げた。
(もしかして僕があの令嬢だと気がついた?)
そんなありもしない心配を脳内に浮かべながら、レオン様が満足するまで店を見て回る。
僕もずっと手に持っていたぬいぐるみを会計に持っていく。
「これも一緒にお願い」
「えっ!自分で払いますっ」
「いいんだ。贈り物選びに付き合ってくれたお礼だよ」
そう言われてしまうと断ることも出来ず、会計が終わるのを待つ。
綺麗にラッピングが施されたぬいぐるみを手渡されて、口元が緩みそうになるのを我慢した。まるで、幼い頃のあの日に戻ったみたいだと思う。
「ありがとうございます。僕、すごく幸せです」
自然と満面の笑みが溢れてくる。
「……やっぱり……君は……」
「なんですか?」
僕の顔を見つめながら、なにかを呟いた彼に尋ね返す。
「なんでもないよ」
「そう、ですか……」
一緒に店を出ると、待たせていた馬車の前で別れを告げた。でも、レオン様はその場から動こうとしなくて、不思議に思う。
「そういえば、名前を聞いていなかったよね」
「ダニエルです。ダニエル=ベルガモット」
「……そうか。ふふ、ダニエルか」
なにが楽しいのか、クスクスと笑みを零すレオン様。
「今日はとても楽しかった。またね、ダニエル」
「っ、はい。僕もとても楽しかったです!……またっ」
もう、次は訪れないかもしれない。それでも、いいんだ。思い出の店でレオン様と楽しい時間を過ごせたんだから。満足だよ。
もう一度だけお礼を言ってから馬車に乗り込む。
窓から外を見れば、レオン様はまだ店の前で僕の乗った馬車が動くのを見つめていた。
それから数週間後のことだった。レオン様が別荘で交流を兼ねたパーティーを開くという項の招待状が送られてきたんだ。宛名にはエルと書かれてある。
どうやってエル(僕)の居場所を突き止めたのかはわからない。招待状を見詰めながら頭を悩ませる。また、エルとして参加したらレオン様はどう思うかな……。あの日、逃げ出したことを今更になって後悔している。
この気持ちを忘れようと躍起になっていた。でも結局忘れられないまま……。伝える機会はいくらでもあったはずなのに、意気地無しの僕はその機会を棒に振ってしまっている。
招待状の文字を指で撫でながら、もう一度だけ……あと一度だけ、勇気を出してみようと思った。
エルではなく、本当の僕の姿で彼に会いたい。
僕はエル(女)じゃない……。だから、気持ち悪がられるかもしれないし、騙していたことを怒られるかもしれない。それでも、レオン様に知って欲しいと思った。
僕は貴方が好きなんだって。
パーティー当日、紺色のスーツに手を伸ばす。髪をセットして、蝶ネクタイを着けた。鏡を確認する。どこらかどう見ても、男にしか見えない。
緊張で張り裂けそうな胸を押えながら、一度鏡の自分に向かって大きく頷く。
「大丈夫。行こう」
使用人に見送られながら馬車に乗り込む。
別荘まではそう遠くはない。それなのに、随分と遠くへと向かうような面持ちだ。
辿り着くと、使用人へ招待状を手渡す。
中に通されると、広間には僕以外にまだ誰も来てはいなかった。
不思議に思い、辺りを見渡してしまう。でも、やっぱり豪華な調度品や料理以外に、人の影すら見当たらない。
「来てくれたんだね」
背後から声をかけられて振り返れば、銀色のスーツに身を包んだレオン様が立っていた。緊張が増す。
ゆったりとこちらへと歩いてくるレオン様。手を伸ばせば届く距離で足を止めたレオン様が、優美に微笑身を浮かべている。
「やっぱり君がエルだったんだね」
「っ、あの、騙すみたいになってしまってごめんなさい……その、他の方は……?」
「今日は君しか招待していないんだよ」
「……僕、だけ?」
レオン様の手が伸びてきて、腰に回される。そのまま引き寄せられて、逞しい胸元に頬が重なった。
「なにも言わずに逃げてしまうなんて酷いじゃないか」
少し拗ねたような、それでいて色気を含む艶やかな(つややか)な声音が耳元で響く。腰に回された手の温もりに、酔ってしまいそうだった。
「ごめんなさいっ、僕……どうしたらいいかわからなくて……」
気持ちを伝えたいのに、勇気が出なかった。だから逃げ出したんだ。彼に拒否されてしまったら、立ち直れない気がしたから。
「君と店で話したときに気がついたんだ。あのときの幼い子は君だったのだと。それと同時に、エルが君だということもわかった。正直戸惑ったよ。俺は女性としか関係を持ったことがないから」
「……っ、ごめんなさい……」
やっぱり男に好かれるだなんて嫌だよね……。
そう思って身を引こうとしたのに、腰に回された手にいっそう力が込められて、離れることは出来なかった。
「ダニエル、もう俺から逃げないで」
乞うように囁かれた言葉に顔が熱くなる。
「僕、貴方のことを好きでいてもいいんですか?」
思わず尋ねていた。
好きって気持ちがどんどん溢れてくる。もう片方の手で僕の髪を優しく撫でてくれるレオン様。涙が溢れそうになっている目尻に、キスをされて、一雫頬を涙が流れていった。
「幼かったあの日の思い出も、生誕祝いのダンスも、忘れられないんだ。つまり俺は、ダニエルのことが好きなんだと思う。だから、もう一回君の気持ちを聞かせて欲しい」
「っ、僕っ、レオン様のことがずっとっ、初めて出会ったあの日からずっと大好きでしたっ」
「俺も、君のことが大好きだよ」
目尻の次は唇にキスが降ってきた。
不思議な感覚だ。魔法は解けてしまっているはずなのに、僕は大好きな王子様と唇を重ねている。
溶けてしまいそうなくらい幸せな心地だった。
「踊ろう」
レオン様の合図で、控えていたオーケストラ部隊が音楽を奏で始める。レオン様に手を引かれながら、男の格好で、広間の中心をくるくると回る。
二人だけのパーティー。観客は誰もいない。まるで秘密を共有しているような、くすぐったい気持ちになった。
「ダニエル、俺は今すごく幸せだよ」
レオン様の言葉が胸の中に染み渡ってくる。
「はい。僕も同じ気持ちです」
お互いに笑みを浮かべ合いながら、踊り続けた、ダンスが終わっても、きっと隣には愛する彼が居てくれる。
だから、勇気を出してよかったって心の底から思ったんだ。
END
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1