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アルバムをなぞる指先の決断49
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僕が、泣いてる?…
緋色さんから注がれる、可哀想だと言わんばかりの眼差し、緋色さんの言葉は僕の痛みを自分のことのように考えてくれた言葉なのだとは分かっているが、その言葉は、僕には響かない。
ただ…。神さんが事故に遭ってから今日までずっとずっと立ってるのがやっとで、病院に駆けつけた時には、神さんが死んじゃうんじゃないかって。命に別状がないと知った時は心底ホッとしたけど、神さんの痛々しい傷が見てられなくて、みんなの前じゃなかったら自分を抑える自信がなかった。意識を取り戻した時は、全身震えるくらい嬉しかったのに…、神さんは、僕のことを忘れてしまってた…。
僕との出会い丸ごと無かったことになって…
僕は…
ずっとずっと見ないようにしてた心の内側…
喉の奥を引き裂くような痛みと、その奥に呑み込んでいたものが溢れ出そうな何かを感じる前に、そんな不様な自分をねじ伏せた。
…。
…。
…泣くわけないだろ。
緋色「あら…、怖い顔」
マキ「どいて」
押してもびくともしない引き締まった体は、僕の上からちっともどこうとしてくれない。
緋色「マキってさ、俺にだけずっと逆毛立ててるよね」
マキ「緋色さんがチャラいからじゃない」
緋色「怒った顔も可愛いけどさ、俺にだけプリプリしちゃってるから、逆に構いたくなっちゃうんだよね」
マキ「怒ってません」
緋色「奏一さんや修二から聞くマキは、いつもヘラヘラなんでもかわすって言ってたけど、俺の前では結構表情豊かだよね」
マキ「!」
表情豊か?
僕が?
…。
緋色「おっ、困った顔。ほらほら美人が台無し」
緋色さんは僕の顔を両手で包み込み、親指でほっぺをいじくりまわす。
マキ「緋色さん、いい加減僕の上から退いてください」
緋色「ほらほら、目の下クマできてるし、目も真っ赤っかだよ。心なしかおでこ熱くない?」
マキ「ちょっ、そんないい加減なこと言って撫でくりまわさないで」
緋色「いや、マジ」
マキ「僕は熱なんかない、緋色さんの手が冷たく感じるわけでもないし、もう、退いて」
緋色さんを押しのけると、緋色さんは今度はすんなり僕を解放した。
乱れた服装を直しながら、出口へ向かうと、緋色さんは悪びれる様子もなく、ただ残念そうに僕の背中に声をかける。
緋色「帰っちゃうの?」
マキ「帰ります。これ以上変なことするなら、奏一さんに言いますよ」
緋色「奏一さんは勘弁してほしいな。あの人怒らすと俺無事じゃ済まないし。でもさ、帰ったら、また彼氏さんに泣かされちゃうよ。そうなっても、奏一さんは怒ると思うけど」
マキ「緋色さんに、僕と恋人の関係をとやかく言われる筋合いない。僕は彼が大好きだし、彼は僕を凄く凄く大事にしてくれてる」
緋色「〝彼も僕を大好き〟とは言わないのなw」
マキ「…、彼は、僕よりずっと深い思いやりと愛情で〝大好き〟でいてくれてます」
ーバタン!!!
白銀の世界に飛び出した。
外は大粒の雪に積もった真っ白な世界。
暖かい部屋から飛び出したせいで、全身が刺すような寒さに身を縮めた。
振り返ったビルからは、緋色は追ってこない。
安心して前に向き直り、降り積もった雪を踏みしめて前に進む。
真っ白な一面の雪は、降り続く大粒の降雪で何もかも埋めていく。
『神さんは、僕を、僕よりずっと深い思いやりと愛情で大好きでいてくれてる…』
『〝神さんは〟…』
『神さん〝は〟……』
マキ「……どこ…?…」
立ってるのがやっとだった。
『大変なのは神さんだから』
限界はとうに超えていた。
『苦しんでる神君の力になりたい』
言い当てられて感情のコントロールを失っていることに気づいてない。
怒るなんて、僕はそんなこともうまくかわせなくなってる…
ーブーッブー♪ブーッブー♪ブーッブー♪
静寂を破る携帯の着信音に、思考がピタリと止まる。
着信が誰からなのか予想もつかないまま携帯を取り出す。
虚ろな瞳に映った名前は…
マキ「あっ、…彩さん…」
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