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騒音
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『二人だったら狭いなぁ。』
『狭くていいよ。恋と一緒ならなんでもいい。』
『ばっかじゃねー?なんでもデカイほうがいいんだよ!あ、でもお前のちんこは自重しろ』
『生まれ持ったものなんだから仕方ないだろ?あと、一ヶ月か、一ヶ月で一緒に暮らせるなんて、夢みたいだな』
『今までも一緒に暮らしてたようなもんだろ!』
一ヶ月前。
この部屋の床に座って、なーんもない天井を見上げながら、二人でそんな会話をしたなー、と、思い出す。ぼふん、と沈んだベッド。床ではなく、ベッド、一人で眺める天井、愛とではなく、一人。
ごめん、正直、正直さぁ、苦しい。
すげえ苦しい。誰か俺の頭でも殴って記憶を奪ってくんねぇかな、それでもギターはきっと弾けるだろうから、愛のことを忘れられるならなんだっていい。なんだっていい、ほんとに。
久々に女遊びでもする?いやいや、そんな気分にはなれないし、そもそもちんこつっこむだけで満足できるとは思えない…ってのもある、男としてどうなのって感じだけど。つーか、女遊びできるほどのコミュニティがない、この土地では。
雁字搦め、苦しい、愛に会いたい、会って問い詰めたい、ふざけんなどういうつもりだ殺すぞって胸ぐらつかんで、あの綺麗な顔に頭突きでもかましてやりたい。ポッカリ、穴が空いた。心に?っていうよりかは、感情に。
あいつの支えでいることが、俺の支えだったのかもしれない。することがなくなってしまった。俺は、何を支えに生きていけばいい?
一人飛び込んだ都会への不安。緩和されることなく、募るばかり。
「…なに、してんのかな」
今、何をしてますか。
何を見て、何を感じ、何を想っていますか。お前のことだから、きっと俺に別れを告げたあと、俺が見えなくなったあと、泣いたんだろう。
お前は俺がいなきゃ、生きてはいけても、ずっと泣くと思うって言ってたから。きっと、泣いてるんだろう。
なら、この手を離さなければよかったのに。これから、俺はお前とうまく付き合っていけると思ってたのに。突然の別れ、最後に抱きしめられた感覚よりも、軽く背中を押された感覚のほうが色濃くのこってる。
じわり、じわり、じくり。
心臓にくる、痛み。涙は枯れないものなのか、あんなにたくさん泣いたのに、まだ、溢れる。
目尻から耳にかけて、水滴が落ちていく。
俺とお前にとって一番大切だったものはなんだろう。なんだったんだろう。気づけないまま繕って、最後にこうなるぐらいなら、初めから「好きかも」って思い込みだけで付き合ったりするんじゃなかった。
離れ離れになるぐらいなら、もう、顔も見れないなら。
愛、お前と恋人になってからの俺はさ、後悔ばかりだったよ。
騙してる気分だった。
殺してる気分だった。
愛してる、気分だった。
だから恋人になるという道を選んだ俺たちにとって、今の結末は当然だったのかもしれない。それがベストだったのかもしれない。そう思わないと心がひしゃげて崩れそうだ。
大丈夫、大丈夫だ。俺は恋愛をするためにこの街に来たわけじゃない。夢を掴むために、飛び込んだ。だから大丈夫、お前がいなくても俺は大丈夫。だけど、今だけは仕方ないよな、未練があっても許してくれるよな、視界がぼやけて、蛍光灯が大きく見える。
愛の行方は、わからない。
愛の母である美咲ちゃんでさえもわからないという。ただ一言「一人で生きてみたい」と言ったらしい。それが嘘か本当かはわからないけれど、どちらにしろ俺の前から姿を消すことを選んだということに変わりはない。
思い出す、無機質な機械の声。絶たれた関係を示すそれと、最後に微笑んだマネキン並みに整った顔。
じわり。あーぁ。止まらないなぁ。
センチメンタルは柄ではない。はやく、なんとかして忘れよう。忘れなければ、どこにもいけずに沈むだけだ。真新しい冷蔵庫をあけて、中からチューハイを取り出す。飲んで、飲んで、今日は寝よう。飲んで、飲んで、明日も寝よう。そうやって時が経てば、忘れるだろう。いずれは。
「きゃははははは!大輝くんてばー!もー!」
薄いドアの向こうから、甲高い女の声が響いた。プルタブを開けようとしていた俺は、突然の悲鳴にも似たその声に異常なほどビクつく。つーかいま、外の女、大輝っつった?
「ねー!!大輝くーん!」
ほら、やっぱり!!あいつ、帰ってきたんだ。時刻はもうすぐ0時をさそうとしていた。まてまてこらこらおいおい……時間がどうこうより、それより、おま、…………急用って女かよ!!!しんっじらんねー!あの男!
かつ、かつ、かつ、は?
一人分の足音。そしてすぐに、がちゃん、と部屋のドアが開けられた音がした。
いや別にさ、人の女事情とかどうでもいい。つーかあんまり聞きたくない、特に今は勘弁してほしい。だけど、隣人のデカブツはそんな俺の気持ちなんて知るはずもない。
昨日と違う女の声。ってことはあいつ、そーとー遊んでるんだな。ヤリちんか、あの顔とスタイルだったら女なんかよりどりみどりどころじゃねぇんだろうな。
今の見た目、すっげー頭の悪そうな男だけど!
もう一度いう、俺は人のそういう事情は割とどうでもいい。だけどこのアパート、異常なほどに壁が薄い。低家賃だからしかたねーかもしんねぇけど、会話が筒抜けだ。
なんだよもー!酒でも飲んで寝ようとしてたのに、なんか申し訳なくて部屋から出るしかねーじゃん!大輝、まじ恨むぜ。
すこしの腹だだしさを感じながら、ラインを開いた。誰か、一緒に飲んでくれそうな人をさがす。けど、連絡先にいる知人は9割がた並愛在住なわけで。はぁ、とため息をつく。
セックスにかかる時間、どれぐらいだろう。俺の基準で行けば、一時間もしたら終わるはずなんだけど、他人がどうかはわからない。
「大輝…えっち…する?優しくして…?」
ぎゃーーーー、やばいやつーやばいやばい、ちょっと俺、ほんとこういうの聞きたくないっていうか、今はまじやめてっていうか、あーーまって、俺、家出るからまって!とりあえずズボン履いて家出るまで五分だから五分まって!!!
内心、わけのわからない焦りに引っ掻き回される。
できるだけ音を鳴らさないように、脱ぎ散らかしたままのズボンを履いた時だった。
「…あー、ごめん、なんかー…萎えた!」
ん?
「え…え!?なんで!?あたし、なんか、」
「いやごめん!ぶっちゃけ全然タイプじゃないんだわ!いざヤろうとしたらすっげー萎えちゃった!!」
「はあッ!?」
?!!?!
ハァ??!まじかあの男、あんな天然そーな顔してそんなこと言っちゃうわけ?!
「アンタねえ!!なんなの!?人がちょっとその気になってやったら!!」
「あはははは!!!わりーな!ちーっとこう、ストライクゾーンから逸れてたわー!あと下着それ可愛くない!俺レースとかふりふりついてんの嫌いなんだわー!超萎えちゃったー!!」
「ふざけんなッ!!」
ぶはっ!!!ちょっとまて!女の下着に文句つけんなよ、すげー気ィつかって、俺たち男がふりふりのレースが好きだと思ってそれつけてくれてんだから!!
大輝の断り方が面白すぎてちょっとむり、超ウケる!でも超共感!
別に部屋を出なくてもよさそーな流れになってきたので、このまま酒でものむかーとベッドに座ると、ドタドタドタとカバでも暴れてんじゃねーかってぐらいの足音。あ、これ今朝とデジャヴだ。つーことはこの後、きっと女のうるせー声と、乾いたビンタの音でもするんだろう。そんな予測をしながら壁にもたれかかって目を瞑る。
「サイテー男!!!」
パアンッ!!
「いってえええ!!!」
ほらね。傑作だから!!
「サイテーサイテーさいてー!!!」
と、大声を張り上げる女、ドタドタドタドタうるせえ!あいつの連れ込む女はなんなの?全員カバかサイかヌーか、なんかそっち系の動物?!
これは隣人として、文句のひとつやふたつやみっつでも言ってやんなきゃいけねーよなぁ。ニヤける口元を隠すことなく、冷蔵庫の中にあったサワーを取り出して、部屋を出た。
ら、
「あ。」
女。
恐らく大輝の部屋で騒いでたカバ女だろうか。あれほど騒がしかった女とは思えないほどにはそこそこ可愛かった。んーでも、俺の好みではねーな。なんか睫毛ズレてね?その辺もうちょい気ィつかえよ、と思いながら、「次はサイテー男に掴まんないようにね」と声をかけて、そのまま女の顔は見ないまま大輝の部屋のドアをあける。あーあ!気の毒な彼女ー!
ガチャ
パタン
さっきとは全然ちがう、静かーな部屋。足音をあまり立てないように、そっと中にはいる。そのまま部屋のドアを開けると、床に寝そべってるでっかい男が一人。俺はさぁ、引っ越してきてまだ二日目なわけ。なのにその二日間で隣人の修羅場を二回も聞いてるわけ。
つまり何が言いたいかというと…
「お前の女全員うるせー!!!」
「え…恋!?」と驚いてる大輝。誰かが部屋に入ってくることには気づいてただろ!さっきの女でも帰ってきたとおもったかこのバカタレ!倒れてる大輝に近づいて、上から見下ろす。丁度頭の上の辺の床をダンッ!と勢いよく踏んでやった。
「おおッ!?」
「お前も女もちょーうるせー!!!なんなの!!何で一日にそんな何回も修羅場迎えられんの!?才能!?」
「はあ!?才能じゃねーし!!俺だって何でだか知らねーよ!!!できたら修羅場なんて迎えたくねーしなー!!」
「じゃあ女とっかえひっかえやめろよ!!」
「うっせーなあ!!!俺だってたった1人に愛を注げたらそりゃあ幸せなんだよ!!できねーんだよ今!!恋のばかたれッッ!!」
あん!?なんで俺にキレてんのこの人!!むっかーーーー!!!むかーーー!!イラーーーッ!!キレる相手まちがってんだろ!やってること無茶苦茶なのおまえ!お前の痴態ぐらいお前でなんとかしろよ!
「なんつーこと言ってんのこの人!!っつうか八つ当たりすんな!!せっかくなぐさめてやろうと酒持ってきたのに!!一緒に飲んでやっても良いか、とか想ったのに!なに!アンタはそういうこと言っちゃうの!?もういい帰る!!」
ほんっと、せっかく一緒に飲んで、やなこと忘れよーぜなんて声でもかけようとおもってたのに、このデカブツバカヤロウ!
ぐるりと方向を変えて、自室に戻るそぶりをみせると、さっきまでの威勢はどこへやら。
「わああああ!!恋ごめんんん!!ごめんなさいいい!!俺といてくれー!!今夜は俺とオールナイトしてくれええ!!寂しくて心が潰れそうだー!!」
必死に足にしがみついてきた。
「もっと必死に止めてみろバーカ!!そんなんで俺が止まると想ったら大間違いだー!!」
そう叫びながら玄関のほうに向かおうとするが、まじか。これっぽっちも動かねーじゃねーか!!どんな力してんだこいつ!!!
「恋んんん!!ごめんってばあああ!!今度何でも好きなもん奢るからああ!!だから頼むううう!!」
うるせーーーー!!ご近所さんにクレーム言われるレベルにうるせーーーーー!!仕方ねぇなー、なんか奢ってくれるっていうし?許してやるか?
なんて、まあ、はじめっから許してやるつもりだったけど、な!
「ああもうホントにうるせーな!仕方ねーから一緒にいてやるよ!ほら、大輝はこっちな!」
くるり、振り返ってしがみついてくる大輝に笑いかけた。さっき開けようとしていたチューハイを、大輝に渡す。すると
「うっく…ううう!!恋お前優しいな!!やっぱ優しいな!!」
と、泣きそうな顔でいってくるもんだから、こいつもそーとー苦労してんだなーと思った。
ぷしゅ、と。プルタブのあく音が、部屋に響く。今日はお説教してやる、二日間で二度も聞きたくもない修羅場をきかされたから当然だ、バーカ!
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