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予兆
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最近はよく、大輝の部屋で寝泊まりすることが増えた。…というか、飲みにいったりラーメン行ったりして、遊んだ流れで近所にあるゲオに寄って気になるDVDを借りて、テレビが存在する大輝の部屋にお邪魔して見て、気がついたらそのまま寝てる。っていうのが最近よくある。
大輝も大輝だよな、翌日バイトがあるって日も特に俺を邪魔者扱いすることなくそのまま泊めてくれるんだもん。
なんだかんだと、俺の部屋より快適に過ごせる大輝の部屋にお邪魔すんのは楽しい。俺の部屋、何故かエアコンの効きが悪いし。テレビもないし、パソコンもないし。
大掃除をした、と言っていた日を境に、ごちゃごちゃとした物は無く、殺風景になってしまった大輝の部屋に俺の荷物が増えていく。
パンツ、歯ブラシ、マンガ、雑誌、ジャージにTシャツ、CDまで。
それを見て大輝は「随分喧しくなったな」と笑うだけで、特別怒ったりもしない。
友達というには近すぎる距離、親友ってやつか? とも思ってみたけど、俺にはすでに親友はいる。宮内の部屋に俺の荷物を置こうもんなら絶対捨てられるし、宮内だって俺の部屋に私物を置いて帰ったりはしない。
なんだか、あれだ。同棲秒読みのカップルがマーキングしてるみたいなソレだなぁ。
いや、大輝とどうこうなるつもりはないんだけどさ。もうそろそろ彼女つくんねーと、…ケツでイけるなんて自慢になんねーし、いい加減チンコ腐るわ。
季節は完全に夏になっていた。昼間は蝉がとにかくうるさくて、みんみんみんみんと鳴く声に起こされる。そのあとはせかせか働いて、夜はミーティングかスタジオか、ギターの練習か新曲の制作か、って感じの日々。そして2日に一回ほど、大輝と飯を食う生活。今日もまた大輝の部屋に泊まって、明日の朝シャワーを浴びに部屋に戻るんだろうなぁ、と思いながら、居酒屋のテーブル席二人で飲んでいる。
ちなみにこの居酒屋は庄司くんがバイトしてる居酒屋で、庄司くんが先ほど生ビールを一杯ずつ奢ってくれた。
「…ちっさいよなぁ……」
「ぶっ!!!!!ごほっ、ごほっ、そんなしみじみ言うなよ!ウケるんだけど!」
別卓で注文を取っている庄司くんをジィッと見つめながら、大輝が頬杖をついて「園児にしかみえねー」と、庄司くんに聞かれたらげんこつくらいそうなコトを言っている。それを枝豆をつまんで食べながら笑って、他のくだらない話もたくさんして。帰ろうとした時だった。
「いらっしゃい!…って古賀か。」
庄司の声に反応して振り向くと、そこには古賀がいた。バイト帰りなのか妙に洒落込んだ格好をしている。俺は立ち上がって、「おー!古賀!」と手を挙げた。古賀も俺に気づいたらしく、庄司くんに何か告げたあとこちらにやってきた。
「恋くん!ここで会うなんて奇遇だね」
「お前ほんっとやたらキラキラしてんなぁー!超目立つだろ!?まーまー座れよ、って言っても俺たちもう帰ろうとしてたんだけどさー」
俺の席の隣は大輝の荷物と俺の荷物が置いてあるから、古賀は大輝の隣に腰掛けた。大輝がきょとんとした顔で古賀と俺を交互に見てくる。そのタイミングで庄司くんが「古賀のおごりでよろしく〜」といいながら生ビールを4杯持ってきた。やりー!と思いながらも俺はそろそろ腹が貼っていて、なんで帰ろうとしていた人間にサービスするチョイスが生ビールなんだよ!と思いながらも受け取る。古賀が「え!?なんで!?」と遅れて、自分の奢りということを拒否するも、俺と庄司くんは無視、大輝は大輝できょとんとしたままジョッキを持った。
「てか庄司、お前勤務中だろ!飲むのか!?飲んじゃうのか!?」
「お客さんが奢ってくれるんやったら飲むやろそんなん、なぁ?」
「いやいや、俺おごるとか一言も言ってないけど!?」
「古賀、サンキュー!」
かんぱーい、と、ジョッキを鳴らした。庄司くんと大輝がごくごくと一気に飲み干していく。ぷはぁ!と口の周りを泡だらけにした庄司くんがテーブルにジョッキをどん!と置いた瞬間、店の店長らしき人がやってきて、庄司くんにげんこつを食らわせた。
「いったーー!!なんで!?」
「なんで!?じゃねーよバカこの合法ショタが!あほか!勤務中だろ働け働けー!」
「はーー!?もう山ほど働いとるやんけーー!あーーーー」
ズルズルと首根っこをひっつかまれて、ホールからキッチンに庄司くんが連れて行かれてしまった。
「ぶっ!!合法ショタだって!!」
「庄司くんに会いに来たのに連れて行かれちゃったさー…ショックー」
「あー、ごめん、あのさ」
古賀と顔を見合わせて笑っていると、大輝が言いづらそうに話をぶった切る。
「えっと、そちらの人は恋の友達?つーか日本人じゃないよな、日本語上手いな」
「…………………。」
「…………………。」
悪びれる様子もなく、大輝がにか!っと笑った。俺は耐えきれずに腹を抱えて笑う。古賀は嘘だろ!?って顔で、口をあんぐりとあけて大輝を凝視していた。
「は!?は!?恋、なんで笑ってんの!?」
「ひーー!っむり!ウケる!!なんで!?俺らのライブ見てたじゃん大輝!こいつうちのバンドのドラムだよ!?」
ただでさえ古賀は目立つ。190超えの身長に、ハーフで色白、やたらと整った顔、うちのバンドで一番イケメンだと思うんだけどなんで覚えてないわけ!?
「ちょ、ちょちょ、酷くない!?俺はアンタのこと知ってるんだけど!?大輝くんでしょ!?」
「えっ、なんで知ってんの?」
「俺らのライブ来てくれてたじゃん!恋くんの隣人って恋くんから聞いてるし!」
「ぎゃははは!!無理!ウケる!古賀だけ認知されてないのマジでやばいんだけど!」
「えっ知らないって、だって俺、恋しか見てなかったし!!」
「それもなんでだよ!!あーーーやばい、今日イチ笑ったーー古賀、自己紹介しとけば!?」
ケタケタ笑いながら、タバコに火をつける。それを見て古賀も「俺も灰皿かして」と言って、自分のタバコに火をつけながら「まじかぁーー」とうな垂れた。
「古賀匡紀、恋くんの一個下、O型、Gactでドラム叩いてまーす、あと日本生まれ日本育ちの日米ハーフですーどーーぞよろしく」
「えっとー、俺は宮崎大輝、恋の隣人で、恋の一個上、よろしく…ってお前年下かよ!!見えねーな!老けてんな!?」
「はぁ!?アンタさっきから失礼すぎない!?」
「そんな怒んなって!なんだっけ?オガくんだっけ?」
「コガですけど!?ちょっと恋くん!なんなのこの人!まじむかつくんだけど!」
「はーー!?さっきからむかつくむかつくってさぁ、俺だってお前にムカついてるからね!?恋と楽しく飲んでたのに割り込んできてさー!」
「いやいやいや、俺をここに呼んだの恋くんだから!なんなのアンタら、付き合ってんの!?」
「なっ、ばっ、なんでそーなるんだよ付き合ってるわけねーだろ!恋は友達!!」
「何焦ってるわけ?!あーやーしーー〜〜」
「レーーンーー!こいつすげーウザいんだけど!」
「マジでこっちのセリフなんですけど!?」
テーブルを挟んででかい男が二人、ギャーギャーと声を張って喧嘩をしているのを半笑いで見てるだけの俺、たまんなくなって吹き出した。
「いるもんだな?生理的に気の合わないヤツって!」
「ほんとにね!?俺大輝くんとだけは仲良くなれない!」
「俺もソガくんとだけは仲良くなれる気しねーわ!」
「コガですけど!?なあそれわざとだろ!!!」
ギャーギャーギャーギャーと騒いでいると、スタッフルームから庄司くんが出てきた。すでに私服に着替えているから、今日はもう上がりなんだろう。こっちにまっすぐ向かってきて俺と大輝の荷物の上にどかっと座る。
「あーーーーー!!!庄司くん!!なんで荷物の上に座るかなぁ!?」
「あー疲れた、恋おまえまだビール飲みきってへんの!?ぬるなってるやん、飲み方の知らんやつやなー」
「ちょ、っと!」
庄司くんが俺のビールを奪って飲み干す。ついでに灰皿を自分の前において、タバコに火をつけて、俺たちの荷物は庄司くんのケツの下。
「庄司!お前のバンドのドラムの教育ちゃんとしろ!!!あと荷物をケツに敷くな!!」
「お前らの荷物なんかせいぜい財布しか入ってへんやろええやん別に。てか古賀の教育てなんやねん、俺は教育係りちゃうで」
「庄司くーーん!この人なんなのー!?庄司くんの同級生だよね!?すげぇむかつくんだけどー!」
「ほー、俺はお前ら二人のデカさにむかつくわ。」
そんな感じで騒いでいると、帰ろうとしていた時間から2時間も経っていて、もうそろそろ閉店だっていう時間まで飲みまくった。俺は酒に強くないから途中からダウン、あんまり何話してたか記憶にない。お会計もどうなったんだろう、結局古賀持ちだったのかな。寝落ちして、目が覚めた時には、大輝の背中に乗っかっていた。
「んーー、あーー大輝ー?」
「んー。お前ほんと、飲みすぎだからなー?」
ゆらゆら、ゆらゆら、大輝の背中におぶさって、大輝がおんぶしてくれていることだけはわかった。
「前もこんなことなかったっけー?俺が潰れてー大輝が連れて帰ってくれたのー」
「あったなー。恋さ、痩せた?前より軽くなった」
「まーじでー?よく覚えてんね」
「覚えてるよ、恋のことだし」
そう最近、最近大輝はこういうことをよく言うようになった。
女の子に言ったら喜ぶだろうなぁってセリフをたくさん。俺に向かって。
「なんそれ、ウケるー、はははっ、楽しかったなー」
「俺は終始ムカついてたけどな」
「古賀ー?」
「ウマが合わない!感想は以上!って感じ」
「はははは!うそだ、楽しんでたくせに」
大輝の肩に顔を埋める。居酒屋の匂いがしみついた服からほんのすこし、大輝の匂いがした。
そこでまた、俺は重くなってきた瞼を閉じる。あったかい背中、というよりは、夏だから暑いと感じる背中。
きっと目が覚めたら、また大輝の部屋で転がってるだろうな。いつも迷惑かけてるけど、いいよな。迷惑かけて、かけられて、そんな関係が一番楽しい。
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