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揺らされる
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「で、何があったんだ?」
ようやく涙が収まった俺の様子を窺いながら、八嶋さんが尋ねてくる。
誰かに聞いてもらいたいと、ずっと思っていたが、いざとなるとどう言えばいいのか、どこまで話していいのかわからなくなる。言葉に詰まっていると、八嶋さんがいじけた雰囲気になった。
「おれなんかに、聞かれたくないならいーけどよー」
口まで尖らせている。黙っていれば、男前の部類に入る八嶋さんのそんな表情に、思わず笑ってしまう。
「違いますって、八嶋さんだからとかじゃなくて、俺、今まで人に相談とかしたことなくて」
情けない話ですけど、と続けると、ポンっと頭に手を置かれた。
「話せば楽になることもあるぞー」
わざと顔をそらしたまま、そういってくれる八嶋さんの優しさに素直に甘えておくことにする。
「・・・付き合ってるやつがいるんですけど・・・なんか、浮気されてるみたいなんですよね・・・んで、昨日は眠れなくてなんか気づいたらあの辺でウロウロしてました」
口に出してしまうと、なんて曖昧な話だろうと改めて思う。何も決定的なことはないのに、ただの外泊、それだけかもしれないのに、追い詰められている自分が恥ずかしくもなる。
「や、でも、俺の思い込みかもしれないんで」
慌てて誤魔化すように笑う。
途端に、頭に置かれた手でグシャグシャと頭を強く揺らされる。
「無理して笑うな。お前が浮気だって思って、苦しんでるのはホントのことだろ?なら、誤魔化すな」
八嶋さんの手が、ゆっくりと頭から離れていく。
「お前が、そんだけ苦しんでるってことは、そいつのことがそんだけ好きってことだろ?」
何故か、苦しそうな表情の八嶋さんを見て、この人も苦しい恋をしているのかと思う。
苦しいくらい、アキラが好きだ。そのことは変わらない。変えられない。
俺は黙って頷いた。
「そのまま、見て見ぬふりってのも別に悪くはないと思うけど、お前が今の状態が苦しいなら、はっきりさせるのもアリじゃねーか?」
「もし、本当に浮気だったとしたら、どうしたらいいんですか?」
すがり付くように尋ねてしまう。
「それは、おれにもわかんねーけど。まぁ、おれだったら怒鳴りまくって、言いたいこと言ったら別れる、かなー」
別れる。その言葉に心が冷える。
「別れたくないなら、このまま知らないフリでいるしかないあってことですよね・・・」
「お前は、それでいいのかよ。言ってやりたいことねーの?男なら、ガツンと言ってやれば?そんで、どうするか話し合ったらいいんじゃねーの?」
八嶋さんは、俺が男のアキラと付き合ってることも、アキラと一緒に住んでいることも知らない。言うつもりもなかったが、男なら、の言葉にアキラに抱かれる自分を貶された気分がする。
こんな関係がそもそもの間違いなのかもしれない。
そう、突き付けられた気がした───
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