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共依存
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もともと、単位のためだけに受けたものを、真面目に聞く気などなく、連日のバイトで疲れた体を休めようと、頬杖をついて、ぼんやりとしていた。
そんな俺の意識を取り戻させたのは、“共依存”という、聞き慣れない単語だった。
少しだけ興味をそそられ、前を向くと、白髪混じりのいかにも心理学の教授らしき人物が、黒板に何やら図のようなものを書いて、共依存について説明しているところだった。
「───このように、共依存とは、特定の他者との関係において、他者から必要とされることで、自分の存在意義を実感し、またその関係性に過剰に依存し、囚われることを言います」
よく意味がわからなかった。
「まぁ、簡単に言えば、特殊で歪んだ特定の相手との人間関係に依存するのが、共依存ってことかな」
噛み砕いて簡単に説明されると、瞬時に心が冷えた。
・・・まるで、俺のことだ。
「皆さんの中にも経験のあるかたも、いらっしゃるでしょう?ドロドロした恋愛にのめり込んで、相手が何をしようと許してしまう。自分がいなければ、相手がどうなるかわからないから、離れられないと思ってしまったことが」
少しざわざわと教室内が揺れる。
「まぁ、軽い共依存だけでなく、現実問題として、家庭内暴力や虐待、アルコールや薬物の依存症なんかに、これが絡んでくるとやっかいなんです・・・」
続きの話は全く耳に入ってこなかった。
気づけば、授業は終わっていて、講師となっていた教授が拍手と共に送り出されていた。
頭で考えるより早く、体が動いていた。
「すみませんっ、教授!」
ゆっくりと振り向いた教授の顔は、意外と若いようだった。
「少し、質問よろしいでしょうか」
「ここじゃ落ち着きませんね、私の控え室にいらっしゃい」
そういってゆったりとした動作で、控え室と張り紙のされた部屋に案内される。
「さぁ、どうぞ」
紙コップのコーヒーを差し出されながら、勢いを失った俺は、なんと話し始めればいいのかわからなくなり、コーヒーに視線を落とす。
「授業のこと、というより、自分がそれに当てはまるのか、ってことですよね?」
思わず視線を上げると、穏やかな微笑みのままの教授と目が合った。
「当たり、でしょう?」
頷くしかない。少し迷った挙げ句、今の状況をアキラが男だということを隠して簡単に説明した。
「俺が、共依存になっているとして、俺は、どうしたらいいんでしょうか」
すがり付くように尋ねてしまう。また、他人に頼っている。アキラに頼ってこの人に頼って。自分が嫌になってくる。
「それ。それですよ」
・・・なんのことか、さっぱりだ。
「今、君は自分のことがとても嫌いでしょう?そして、今の状況を招いたのは全て自分が悪いと思っている」
やっぱり、頷くしかない。だってその通りだから。
「共依存の特徴なんです。自分自身の価値を認めてあげられないから、他人からの評価に頼る。そして事態が悪化すると全て自分の責任だと感じてしまう。でも相手はそれで引くどころかますます増長するから事態はどんどん泥沼化してくる」
言葉と顔色を失う俺に、ふふっと微笑った教授が更に言葉を重ねた。
「ああ、そんな顔しないでください。・・・私はね、共依存というのは人間関係において一つの在り方だと思っているんです。別に本人たちさえ良ければ、何も悪いことはないと思います。そもそも、個人の付き合い方を周りがとやかく言うなんて、おかしいでしょう?」
ただ、黙って頷く。
「・・・でも、君は苦しいと思っているんですね。パートナーとの関係に疲れて絶望しかけている。そう、ですね?」
「くるしい、です。好きなのに、なんでこんな目に合わされてるのに、まだ好きなんだろうって考えちゃって、苦しいです・・・」
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