アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
柔らかな声
-
あれから、どれくらいの時間が経ったのか。
そろそろ、コートがないと夜はひんやりと寒くなるな、とどこか冷静な自分がいた。
ふと、足を止める。
じりじりとした疲労が、足から全身に広がる。
どんだけ歩いてたんだろ。
ぐるぐると同じところを廻っていたのか、何時間も歩いていたはずが、あまりマンションから離れていなかった。
駅に近い方向だったため、そのまま駅に向かう。
財布は持っているし、とりあえず今夜はなんとかなるだろう。
駅に着いて、持っていた定期で駅構内に入る。風が防がれ、寒さがマシになった。
駅のベンチに座って、何気なく携帯を見ると、着信を知らせる小さな光が点滅していた。
当たり前だが、バイトの時間はとっくに過ぎていて、案の定着信のほとんどがバイト先からだった。
軽くため息をもらしながらも、バイト先に謝って説教を受ける気分にもならず、そのまま放置する。
一つだけ、アキラからの着信を見つけた。時間は今から一時間ほど前だ。
ああ、バイトに行ってたら、ちょうど終わる頃だな。
・・・迎えに行ったのだろうか。
メールも何件も届いていたが、開かなかった。そのまま静かに携帯を閉じて 、ポケットに仕舞おうとしたその瞬間に携帯が震え、着信を告げる。
液晶画面に現れた名前に、思わずすがり付くように通話ボタンを押していた。
「もしもし・・・」
「もしもし、・・・朝比奈です」
あの時も感じた、大人の優しさの滲む声。教授がイイ声だと困るよな、講義中眠くなって。なんて、どうでもいいことを考えていて、しばらく無言になっていたことに気づかなかった。
「・・・えっと、前に、電話くれたよね・・・?共依存の講義の時の・・・あの時の子だよね?」
そうか、俺は、名乗ってもなかったのか。今更ながら、自分がいっぱいいっぱいだったと恥ずかしくなる。
「・・・そうです、あの時は、ありがとうごさいました。変な話聞いてもらって。・・・あの、今更ですけど、俺、楠木亮といいます」
「クスノキ、リョウ君、だね。ちゃんと登録しておくよ」
柔らかな声が心地いい。
「ずっと、君から連絡来るの、待ってたんだよ。余計なお世話だろうけど気になって、ね」
あれから、苦しい思いはしてないかい?
優しく問われ、なんと言っていいのかわからず、黙り込んでしまう。
「よかったら、また話聞くよ?」
今日だけ、今日だけ甘えてもいいんじゃないか、そう思った。
「・・・今からって、無理ですよね・・・」
図々しく迷惑きわまりない頼みだ。
それなのに、断られるのが当然の俺の頼みを、優しい声で受け入れてもらう。
「いいよ、今どこにいるの?外だよね?僕も今、外にいるから、どこかで会おうか」
オレに気を使わせないためだろう、軽い口調で、待ち合わせ場所を決めてくれる。
待ち合わせ場所は、大学の近くで、俺も行ったことのあるコンビニで、重く動きの鈍い体をなんとか動かし、通い慣れた道を移動した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
51 / 259