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注目の的
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先生に連れてこられた先は、一軒の街中にあるバーで。
そんなに飲み歩いたことのない俺でもわかるくらい、一見普通のバーとなんら変わりはなくて、そこが、いわゆるゲイバーとはわからなかった。ただ、その店に入ったあと、すぐに先生に耳打ちされて、ようやく理解する。
「ココ、僕の遊び相手の探し場所」
ハッと周りを見渡すと、確かに少し雰囲気が違う。男ばかりというのもそうだが、なにか妖しい空気が漂っているのだ。
「先生、俺はこういうとこはちょっと・・・・」
慌てて帰ろうとするのをまたしても、「何事も経験」と意外に強い力でねじ伏せられ、カウンターまで引き摺られる。
先生は確定しているようだが、俺自身は、ゲイだと認識したことはない。確かにアキラは男だったし、男である先生とそういうこともしている。でも、アキラ以外の男と恋愛ができるとは思えないのだ。だからといって、女の人にも恋愛感情は持てないが。
結局、俺にはアキラしか駄目な気がする。
それは、先生が一番危惧していることなのだろう。
自分の言葉がきっかけで、アキラと別れた俺が、ずっと一人でいることに責任を感じているのは薄々気がついていた。
だけど、アキラを忘れられない俺が、八嶋さんに返事もしていない俺が、新しい出会いなんて求めるわけもない。
先生もそれを察してくれて、俺が一人でいることを放置してくれていたのに。今更、どうして。
「そろそろ、君も誰か見つけるべきだよ。アキラ君だって、結婚したんだろ?君が義理立てる必要はないと思うよ」
義理立てているわけではなかったのだが、先生に言い含められるようにそう言われれば、拒否することもできず、大人しくカウンターに座った。
まあ、出会いなんてなくても、先生とゆっくり飲めばいいか。
そう、思っていたのに。
「じゃ、ママ。この子頼んだよ。ウチの大事な子だからね、おかしな奴は寄らせないでね、ちゃんとした奴紹介してやって」
俺が座った瞬間に、先生は何かに追われるように、カウンター向こうの男性に声をかけ、慌ただしく去っていく。
呆気にとられて、ただ先生を見送ってしまう。しまった、やられた。そう思ったときには遅かった。
「あらあら、ヒナちゃんってば、よっぽど今の彼氏に夢中なのねー。慌てて飛んで行っちゃって」
何飲む?と、柔らかな口調で話しかけられ、完全に帰るタイミングを逃してしまう。
ママと呼ばれた人は、どう見ても男性で、でも言葉遣いは柔らかな女性のもので、オネエ系ということなのだろうと思う。
「あの、さっき、先生が言ってたのは気にしないでください。俺は、紹介とかそういうの、結構ですから」
「先生って、ヒナちゃんのこと?」
朝比奈だから、ヒナちゃんと呼ばれているのだろうと、見当をつけ頷く。
「あらぁ、残念ね。アナタこの店に入ってきたときから、注目の的なのに」
俺が注文したビールを注ぎながら、ママがそう言う。
「うーん、とりあえずアタシからは紹介はしないけど、勝手にアナタを口説きに来るお客さんは止められないわよー?ヒナちゃんに言われてるから、変な奴は寄らせないようにするけど」
まあ、ウチのお客さんはほとんどいい人ばっかりだけどね。と微笑むママは、ケイさんとはまた違う安心感を与える人で、接客業が長いのだろうなと、想像させられた。
このママの雰囲気なら、また飲みに来てもいいかもしれない、そう考えながら、ビールを飲み、チャージ代わりのつまみのナッツを口に運んでいた。
ママの先ほどのセリフをちゃんと聞いていなかった自分を、後から呪うことになろうとは、この時の俺は、考えもしていなかった。
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