アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
思い出す
-
「・・・じゃあ、橋本さんならどうしてたんですか?」
「そうだね、私なら・・・」
橋本さんとの飲み会は、意外なほど楽しく時間が過ぎていった。
電話口では、俺を口説くような甘い声を発していたが、二人きりの酒の席でその声を披露することはなく。
聞くのが仕事の俺なんかよりよっぽど聞き上手で、返す言葉も洗練されており、心地よく会話が弾む。
自分が楽しんでいることは自覚していた。橋本さんに親近感を抱いていることも。この短い時間で呼び方だって変わってしまっている。
飲みすぎないようにしようと気を付けてはいたが、気がつけば先生と飲むときと変わらないくらい酒が進んでいた。
飲みすぎた頭が、すっと冷えたのは、橋本さんの左手の薬指を見た瞬間だった。
そこには指輪はなかったが、指輪のあとの他より少し白い肌が、指輪をしているときよりも、その存在を主張しているようで。
しかも、俺は、ようやく思い出す。
「橋本さんっ、息子さんはっ?」
時計を見れば、10時を回ったところだ。確か橋本さんの息子さんはまだ5歳になったばかりだ。保護者がこんなに遅くなって大丈夫なわけがない。
「ああ、大丈夫大丈夫。泊まり込みの家政婦さん雇ってるからね、心配要らないよ」
橋本さんは、俺の焦りなんか全く気にもしていないようだった。
「大丈夫って、まだ息子さんは幼いんですよ?」
いくら、家に人がいるからといっても、他人だ。そんなの、いいわけがない。
それでも、橋本さんは俺がどうして必死なのかわからないという顔をしていいたた。
ここで子どもの成長に親の存在がどれほど重要か、議論をしている余裕もない。
とにかく早く帰すことが最優先だ。
俺が追い立てるように、橋本さんをせかすとやれやれという表情で帰り支度を始める。
その姿からは、息子さんと一緒にいた時の子煩悩そうな様子は全く窺えなかった。
「今日はこれで帰るけど、また埋め合わせしてもらうからね」
今すぐ帰るのが、よほど不本意らしい。俺が誘いをかわすために言い出したとでも思っているのだろう。
未練がましく、何度もこちらを振り向きながら帰っていく橋本さんの姿を見送りながら、俺は、ケイさんに教えてもらったことを思い出していた。
『アキラってさ、ガキの頃から親と一緒に暮らしたことないらしいんだ。いつも使用人しかいなかったんだと。・・・だからじゃねえのかな、あいつが家族に憧れ抱いてるのは』
俺は無意識のうちに、橋本さんの息子さんをアキラに重ねていたのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
94 / 259