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頑固
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汐音は朝から俺の言うことに「無理」の一言一点張りだった。
今も、弁当を食べ終わって教室に戻ろうとする汐音を引き止め教室前で論争を繰り広げている。
「前みたいに『かお』って呼べよ」
「やだ」
「なんで。そう呼んでたんだから呼べばいいだろ」
「無理なもんは無理」
「あぁ? 交換条件でお前、俺がお前の問いに答えられたらなんでも言うこと一つ聞く、つったよな?」
「ああ、言ったさ。でも、それは君が君自身の力で答えにたどり着いたらの話だろ?
結果、君は僕のヒントがなければ気付けなかったじゃないか。クソ鈍感野郎」
「う、ぐ…」
確かに、その点においては否めないが…
「でも、」
「ネチネチと女々しいな、君は。
まだなにか不満でも?」
呆れ顔でチッと舌打ちされる。
…なあ、俺たち日は浅いけど付き合ってんだよな? 覚えてないけど、前もそうだった筈だよな?
なのに、なんでこいつは以前となに一つ態度が変わってねぇの
普通、なにかしら変化があるものなんじゃないのか?
もうちょっとこう、可愛げが出てくるとか…昨日限りで見納めとかなしだぞ
「…なに」
「…別に」
「あっそ。なら、その 人を舐め回すような視線はどうにかしてくれない?
変態」
「……………」
眉間に寄ったしわがさらに深く刻まれたような気がした。
こいつといると早々に老けそうだ。
「他になにもないなら戻るよ」と言われ、教室に入っていく汐音を見送った。
一人取り残された俺は苛々と頭を掻きむしった。
「…なんであんなに頑ななんだよ」
俺自身、下の名前で呼ばれるのはなかなか気が進まない。だって、女みたいな名前だから。
だから容易に他人に教えることはほとんどないのだが、汐音ならいいか、と思ってしまう。俺の記憶が曖昧な時もそう呼んでたみたいだし、今更、特に強い抵抗はない。
それに、以前のように『かお』と呼んでもらうことで思い出すことが増えればいいな、とも思っている。汐音はそれを望んではいないようで、今朝からのやり取りが物語っている。
消化しきれないモヤモヤを抱えたまま自分も戻ろうと背を向けた時、誰かに声をかけられた。
「ちょっと、そこのオニーサン」
「…は?」
振り向くと、見覚えのない人物だった。
天パなのか、金がかった栗色の髪がふわふわと揺れていた。前髪はピンで留めてあって全体的に活発な印象を受ける。
「…誰だ?」
「きみ、菅野クンでしょ?
なんかお悩みみたいじゃない」
「関係ないだろ。つか、なんで俺の名前知ってんだ。誰だよほんと」
「あたし?」
「他に誰がいる」
「それもそうだねえ」とその子はケラケラ笑った。なんか飄々とした感じがどことなく汐音に似ててイラッとした。
「とりあえずさ、場所変えない?
どうせその調子じゃ午後の授業に出たって解消されないでしょ」
そう言うとハイ、とポカリの缶を差し出してきた。
俺の心を見透かしたような言動にまたイラッとする。
しかし、悔しいけどその子の言う通りで、俺はきっとこの後も放課後になるまでずっと気分の悪い時間を過ごすんだろう。見ず知らずの相手について行くのはあまり気乗りしないが、もしかしたら会話の中でなにか打開策が開けるかもしれない。
それは汐音に似た雰囲気を感じるからだろうか?
少し躊躇って、差し出された缶を手に取った。
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