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気持ちに名前を付けるとしたら
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ポン、と背中を叩かれてハッとした。
後ろを振り向けば桐島が。
ていうかいつの間に桐島が。
「おはよ」
「お、おはよう」
「なんか…大丈夫? 今まで気づくべきだったことに気づいちゃったみたいな顔してるけど」
「それはキスのことですか!?」
「はあ?」
って俺は何を???口滑らせてんだっ!
「ごめん…えーと、大丈夫。平気。朝ちゃんと食べたし貧血予防の薬も飲んでるし」
「は? 貧血? 具合悪いの?」
「(しまった桐島とかには貧血の話してないんだっけ、)なんでも…ない」
「柚木?」
「???先輩体調悪いんですか?」
色んな意味で、今一番会いたくない相手がそこに居た。
だから、なんでいっつも神出鬼没なんだよ。
「先輩?」
いつかのカラオケで見せた、心配そうなあの顔だ。
ああ、髪上げてるからか…なんて頭の隅で納得する。
「ほっぺ真っ赤っすよ。熱あるんじゃ、」
「だっ…大丈夫だから!」
反射的に体を反らして、
しまったと思った時には遅かった。
俺の熱を測ろうとしたのか伸ばした篠の手がビクリと止まって引っ込んだ。
???やめろ、
自然に唇に目が行って、公園の外灯で照らされた…あの濡れた唇とダブってカッとなる。
???やめろよ、
篠の瞳は、
今までの中で最高で最悪に哀しそうだった。
「俺…先に、行くから」
「柚木? あっオイ!」
ようやく流れ出した生徒の群れの中に紛れ込んで、何も考えずにひたすら走る。
何度か桐島が俺を呼んだけど、聞こえないフリで走りまくった。
バカだ俺、バカだ俺、バカだ俺!
水無月の言う通りなんだ、本当に俺の表情筋はおかしくて、俺のしたことって一貫性無くて、キスしちゃって、されちゃって、
それってつまり、篠ひとりのせいじゃなくて、俺の問題でもあるわけで!
空っぽの教室から荷物を引っつかんで、夜逃げするみたいに飛び出した。
さっきの篠の顔と、後悔ばっかがぐるぐる回る。
単純で、簡単な話だ。
俺は篠原千明が好きなんだ。
***
「…で、何がどーしたらこうなったわけ?
柚木くん」
「す…すみません」
「いきなり脱兎のごとく駆け出したかと思ったら制服に着替えて帰って来てさあ…ウチのクラスのバスケはどーするつもりなんですかね?
というか俺らのチームはどうなるんですかね?」
「が……頑張ってください」
「よしわかった表出ろ。ボッコボコにしてやる」
「ぎゃああああ!!!」
あのまま早退する気マンマンだったけど、委員の書記の仕事を篠に押し付けて帰ることになるって気づいてUターン。
着替えちゃったついでに体育館を覗くともう開会式は終わってて、通りかかった桐島に胸ぐら掴まれて二階の観覧席に連れて来られて正座なう。
あああやっぱこいつ怒ると怖えええ。
チームを組んだ柏木と庄司、水無月も壁際に居て、助けを求めてみるけど首を振られて無理だと悟る。
…ですよねー。
「もうココでいいからちゃちゃっと着替えて試合出ろ。代役立ててるヒマねーし」
「ココでって…超公衆の面前じゃ」
「な に か ?」
「ホントすいませんっしたぁ!」
「戻って来たくらいなんだからどーせ仮病だろ?
そんなことで俺は勝てる試合をみすみす逃したりはしないからな」
聞くところによれば、この球技大会の種目ごとで1番になったチームは食堂のタダ券を半年間使い放題、という副賞が付いているらしい。
だから去年もあんなに必死だったのか…なんてのん気に思い返してたら、
パッコーンて頭をはたかれた。
「着替えろって言ったよな?」
「…はい」
こんなことならせめて着替えてくるべきだった。ホントに。俺の馬鹿。
もう色々遅いけど。
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