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○月×日『矢野昔話~将平~①』
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柳一志と出会って、人生が狂った。
高校の入学式。
俺は、彼を初めて目にした瞬間、言葉では言い表せない気持ちになった。
彼がどういう人間かも知らず、判断するのは外見だけ。
だけど、彼はその存在だけで俺に強烈なインパクトを与えた。
これは、俺が柳一志という人間に溺れた憐れで惨めな、人生唯一の汚点……そんな話だ。
入学から1ヶ月。
この頃の俺はというと、自分があらゆる点で人より優れていることに気づいてた。
俺の容姿は、日本人特有の黒髪はそのままに、瞳の色はブルー。
これが小さい頃は気味悪がられた。
けど何故だか中学に上がった辺りからはウケがいい。
家系のせいか体格も同級生より育ちが良くて、それにつけ加えて勉強もできたものだから同級生、上級生や担任、保護者にまで好評だった。
だからといって同性に嫌われたことはない。
とにかくチヤホヤされた。
……と、こんな感じで、幼少期を除いて今まで自分が何事にも中心に置かれていたから、他人が自分より優れてるなんて思ったことは無かった。
そんな俺が唯一目を引いたのが、柳だった。
柳一志という人間は、まず俺より背が高い。
同学年で俺より背が高いやつはいない。
なんなら、上級生だって俺より低い。
そんな俺より柳は背が高く、さらに顔面も整っていて男前だった。
彫りが深くて少し強面と言ってもいいけど、男らしさがあっていい。
黒髪で、清潔感あって、チャラチャラしていない所が好印象だった。
たかが高校生活にカーストなんてものには興味がなかったけど、なんとなく……柳となら友達になれそうな気がした。
……一方的にだけど。
けど出鼻を挫かれた。
俺と柳はクラスが別だったからだ。
クラスが別じゃほぼ接点はない。
移動教室の時になんとなく柳の姿を探したりしたし、柳の名前を誰かが口にしたら耳を傾けたりもした。
クラスが違うくらいどってことないと思ったけど、あまりの情報の無さに、つまらなくなってた。
かと言って、彼のクラスに乗り込んで柳てどんなやつ?なんて怪しい奴過ぎて聞けないし、本人に話しかけるのもなんか嫌だった。
俺にできることは、こっそりと柳を視線の先で探して聞き耳を立てることくらいだった。
あえて言うと、ストーカーではない。
興味があっただけだ。
柳て人間に。
同じ男として。
けど、聞き耳効果で得られた少ない情報の1つに、柳は相当な女好きだということが含まれてた。
この噂が事実であることは、なんとなくわかった。
柳を視界に捉えると、もれなく女子生徒も入ってくるからだ。
しかも1人ではなく、少なくても3人以上は侍らせてる。
見た感じ恋人ではなく、都合のいい関係という様子だ。
これを知った時、かなり呆れた。
自分とは違う人種だと悟ったからだ。
自分の見た目で女性を釣って、しかも遊んでるなんて、しょうもない。
見た目がいいと寄ってくるのはわかる。
自分がそうだからだ。
柳が誰かと真面目に交際しているというなら、俺的に評価は上がっただろう。
けどただの女好きだなんて。
しかも同性に嫌われるタイプの女好きだ。
柳本人も女生徒とばかりいて男子生徒と一緒の所は見た事がない。
周りが一緒にいたがらないのか、本人にその気がないのかはわからないが、柳の周りは常にハーレムだ。
柳は周りのガキくささが残る男子生徒に比べたら男性の体が出来上がってた。
背はあっても線の細い俺とは違って、柳は骨格も男らしくて、色気すら感じるし、そんな柳の見え隠れする雄のフェロモンのようなものに惹かれる女子生徒がいるわけだ。
本能で、柳に目をつけた俺まで、柳に群がってる子達と同等だと思えて、酷く嫌な気分になった。
俺も自分の外見を武器にしてきたけど、柳とは違う。
俺のは、女性を侍らせてるためじゃない。
自分を守るためだからだ。
柳と肩を並べてみたら面白そうだと思ったのに。
残念でならなかった。
俺は、別に男が好きなわけじゃない。
柳が特別だった。
けど俺はハーレムの一員にはなれない。
柳も、女の子相手だったら大歓迎だったかもしれないけど、俺はどこからどう見ても男だ。
小さい頃から綺麗な顔だと言われてきたけど、高校生にもなると、だいぶ男らしくなってきた。
億が1でも女好きが振り向いてくれるようなものは何も持ってない。
小柄でもない。
柔らかくもない。
胸もない。
きっと、このまま何事もなく、俺は柳の世界に踏み込むこともなく終わるんだろう。
.......そう思い始めた頃だった。
「ごめんなさい」
目の前で、頭(こうべ)垂れて涙を拭い、謝罪をするのは2週間ほど前から交際してる俺の彼女だ。
「好きなのは将平くんだけなの……」
浮気をした言い訳を並べながらガチ泣きし出す彼女に、吐き気がした。
「彼とはもう話もしない、だから許……」
「許す許さないとかじゃなくてさ、普通に気持ち悪いよ。他の男に股開く女とかさ。」
あ、ちょっと言い過ぎたかな……?
けど、まぁいいか。
「じゃ、さよなら。」
彼女を置き去りにしてその場を離れた。
柳の女性関係をしょうもないと言っておきながら、自分も告白されて何気なしに彼女と付き合ってた。
だから、俺の彼女に何するんだ!て、浮気相手に怒れるほど彼女に対して愛情がない。
今まで、交際相手は年上の女性ばかりだった。
それなりに経験はした。
だから、普通に男女交際はする。
硬派なわけではないし、普通に性欲もある。
ただ、高校入ってから初めて同学年の子と付き合った。
真面目そうな子だったから、浮気なんて大胆なことするとは夢にも思ってなかった。
そこは残念だ。
その出来事から1ヶ月後。
また、彼女に浮気をされた。
今度は1週間しか付き合っていない隣のクラスの子だ。
前の時と全く同じで、浮気をしてしまったけど出来心だから許してほしいと言われた。
今回の子も告白されて何気なしに付き合った子だったし、許して付き合い続けるほど彼女のことが好きなわけでもなかったので別れた。
俺に振られて泣きくずれる子に背を向けながら、短期間で2度も浮気が原因で別れるなんて.......と信じられない気持ちになった。
ふと、浮気相手のことを聞くのを忘れたなと思った。
前回も彼女の浮気が原因で別れた。
ただ単に興味がなかったからだけど、その時も浮気相手の名前は聞いていない。
俺は、自意識過剰だとは思わないけど、自分が学校内で非常にモテる存在なのは自覚してる。
というか物心ついた頃から今現在までモテなかったことなんてない。
常にチヤホヤされてた。
そう、柳とは別の意味で。
その俺を袖にして浮気。
しかも2ヶ月で2人。
どちらの彼女も大人しいグループの子で、人見知り発動率の高い子だった。
俺と寝たくてまとわりついてくる頭の軽そうな女とは違ったし、告白してきた時も小さい体を震わせて、顔を真っ赤にして一生懸命て感じに少し好感が持てたから交際してみる気になったんだ。
絶対浮気するようなタイプじゃないのに、なんでそんな気になったのか、そう思わせた男(やつ)が気になった。
数日後、浮気相手は呆気なく見つかった。
俺が探すまでもなく、やつのほうから俺に接触してきたからだ。
それがまさか……、まさかの柳一志だとは夢にも思っていなかったから、正直驚いた。
「あの子達処女だったんだけど、びびった。矢野くん手出してなかったんだなぁ」
開口一番がこれだった。
それにまずドン引きした。
あれだけ柳との接点を望んでいたのに、理想が崩れ去る瞬間とは本当に刹那的だった。
それに、まさか同じやつに2人とも寝とられてるとは思ってなかった。
しかも、どちらも俺の彼女とわかった上で手を出したみたいな口ぶりだ。
けど、それよりだ。
もう過去の元カノとかどうでもいい。
驚いたのは、柳一志は俺が思っているようなただの女たらしな男じゃなかったという事実だ。
なんていうか……一言で言ったら”下品”だ。
俺が手をつけた女を抱きたかったと言っているようにも聞こえて気色が悪い。
俺が惹かれた相手はこんなやつだったのか……?
確かに、俺の一方的な興味だった。
接点がなかったから今まで話しすらしたことがなかったから、勝手な理想もあったと思う。
けど、ここまで現実を突きつけられるとは思わなかった。
「.......悪趣味だな。」
それが、俺が柳に初めて発した言葉だった。
「気になるじゃん。学校一のモテ男、矢野将平の彼女てさ」
悪びれもせず柳は俺の肩を抱くと、至近距離でケラケラと笑う。
こんなに近くで柳を見た事がなかったので、内心鼓動が早くなった気がした。
.......やばい、至近距離で見ると顔が整いすぎてるのが分かる。
「うわ、やばい。間近で見たの初だわ。ほんとに目が青いんだな」
俺の心情と似たようなことを柳が口にする。
俺が横目で柳を見るのとは正反対に、柳は無遠慮に興味津々といった様子で俺をガン見してくる。
俺は生まれつき瞳の色が青い。
クウォーターてやつで、髪は日本人特有の真っ黒髪なのに、瞳にだけ外国の血が出た。
10こ下の弟なんかそれにプラス髪が金色だ。
「近い……っ」
急にこんな距離感、いくら同性相手でも心臓に悪い。
しかも俺はまだ現実が受け止めきれてない。
相手はあの柳なんだ。
理想を膨らませ過ぎたにしろ、外見の造形は嘘をつかなかった。
至近距離で見た柳は、遠目で見てた数万倍男前だった。
背も、頭一つ分と思っていたけど、見上げるくらいに高い。
180はありそうだ。
少しツリ目で、微笑む目尻に色気がある。
けど、思ってたのとは違った。
やっぱり、外見的な魅力はあるかもしれないけど……それだけだ。
もっと惹かれる男だと思ったのに、ただの下品な男だったんだ。
所詮16のガキということなんだろうか。
ドキドキと高鳴る鼓動と、現実を知ったショックでどうしていいかわからない。
「なぁ、矢野」
「.......何、」
「矢野てインポなのか?」
「………………はぁっ?」
さっきから俺の中の柳像がどんどん崩れていってる。
「なぁ、矢野はああいう地味目のちっさい子が好きなのか?それとも処女好きとか?」
「何言ってるんだよ。だいたい人の彼女寝取っておいてどんな態度だよ。」
もうこの際、寝取られたことはどうでもいいんだけども。
今は俺は、理想と現実のいたばさみで頭がおかしくなりそうなんだよ。
「寝とった女の自慢話がしたいならわかったから。もう構わないでくれ」
肩に置かれた柳の手をそっと下ろして、背を向けようとすると、今度は腕を掴まれた。
「え、やだよ」
「は?」
「なぁ、もう女つくる気なくなった?」
柳が何をしたいのかも、何を知りたいのかもよくわからない。
よくわからないけど、柳はさっきまでのヘラヘラとした表情を引っ込めて、真顔で俺の目をじっと見下ろしてくる。
柳が何を考えてそん顔を俺に向けるのかは分からなかったけど、答えるまで腕を離してくれなさそうだから、柳の気が済むまで相手をしてやることにする。
「……そうだな、当分はつくらないかもな」
「じゃなくて、ずっとだよ。」
「は……?」
ずっと?
俺にずっと彼女つくるなって?
…………何で?
もしかしてまた俺の彼女を寝とりたいのか?
だとしたらそれになんの意味が……
「お前はそっち側じゃないだろ。あんな#雌__メス__#にお前はもったいないよ。ちゃんとわかってる?初めて見た時からずっと思ってた。この綺麗な顔、芸術品だ」
「…………は……はぁ?」
何言ってるんだ、この男。
そっち側?
そっち側て、どっちだよ!
やばい、
なんか、頭おかしいんじゃ……
「サラサラの黒い髪、真っ白な肌、ブルーの瞳……」
柳の俺を映す瞳がキラキラ輝いてる。
「なに……、なんなんだよ。怖いんだけど」
俺の彼女に興味があるんじゃなく、……俺に興味があるのか?こいつ…
「怖がんなくていいよ。」
柳の手が俺の顔を撫でる。
少し冷たい、大きな手だ。
柳の瞳が今度は熱っぽく、舐めるように俺を見下ろしてくる。
心臓がこれでもかってくらい高鳴る。
「…お前…」
「お前じゃなくて、柳一志。クラスは違うけど、もしかして知らない?」
「……知ってる…」
「ほんと?俺は入学した頃から知ってるよ。矢野将平」
一志がいやらしく笑う。
「なぁ、矢野とエッチしたい」
「はっ?」
ちょっと感動してたのに。
俺が柳に興味があったように、柳も俺の存在を同じ頃から意識してたんだなって、感動してたのに!
ただの下品な男ってのは思い過ごしかなって思いかけていた所だったのに!
結局下品な男じゃないか。
「ふざけてるのかよっ」
「ふざけてないし。マジなんだけど」
高校入学からお互い気になる存在だったって言うなら、男どうしなわけだし、まずは友達からとか、そうなるのが普通じゃないのか?
それがエッチしたいって……、男女見境なくヤりたいだけかよっ!?
「2度も女寝とっといて俺とヤりたいって、本気かよっ」
「だから、わざわざ駆除したんじゃん。邪魔なんだもん、雌のくっつき虫」
駆除……雌…………虫て……。
「……頭痛い。なんなんだよ…」
こいつの言ってることが理解できない。
いや、言ってることは分かる。
けど理解はできない……。
「…………柳て、バイなの?」
自分で言うのもなんだが、この見た目だ。
幼少期から男女関係なく色のついた目で見られてきた。
だからって俺は男と寝たことは無い。
「まっさかぁ。男となんてやだよ。でも、その気になったのはこの顔を見てから」
柳が懲りずに俺の頬を撫でてくる。
「顔……?なんだよ、そんなにこの顔が気に入ったのか?」
呆れながら柳を見ると、すごくいい笑顔で返される。
「そう、すごく。だからヤらせてくんない?」
「顔がいいやつなんて……、探せばいくらでもいるだろ」
それに、簡単に俺の事を抱けると思ってるような言われ方も……心外だ。
そうじゃなくたって冗談じゃないけど。
けど、柳は引かなかった。
「そうかも。けど、矢野がいい。俺の理想なんだ」
「……顔が、だろ」
なんて直球で話すやつなんだろう。
発想もおかしい。
俺の事が欲しいからって、俺の女と寝るか?
ただの女好きじゃないっていうのか?
こいつ、おかしいよ。
けど……"理想"て、その言葉だけで、凄くぐらついた。
俺もお前に理想を抱いてたから……
「なぁ、矢野ぉ…」
「そんな目で見るなよっ」
まるで欲情した獣みたいだ。
今にも食われそう。
「……とにかく、無理だからっ」
「えぇっ、矢野ぉ」
俺は逃げるように校舎に入った。
わかってる。
たぶん、柳は俺のことが好きだ。
そういう感情があって俺と寝たいと言ってるんだ。
けど、これは俺の都合のいい解釈かもしれない。
ほんとは柳に他意はなくて、興味本位でたまたま顔が気に入った俺とヤりたいだけかも。
けど、百歩譲って俺が女の子の気持ちになって考えても、寝るだけの関係なんて嫌だ。
だって、そんなのは嫌だろ。
唯一無二がいい。
俺にはプライドがある。
それに、好きなやつにヤり捨てられるなんて、残酷じゃないか。
いや、好きじゃないけど。
俺は、興味があっただけだ。
それも今日で全部崩れ去ったけどな!
そのやり取り以降、柳との物理的な距離がなぜか縮まった。
俺を抱きたいと告白したからか、やつの行動が大胆になったからだ。
後に、これは柳の努力の賜物だったと思う。
全力で拒絶する俺に、柳は食らいついてきた。
クラスも違うのに、休み時間毎に俺の元にやってきて俺を口説く。
「なぁ将平、帰りにここ行こうよ」
「……嫌だよ。」
一志がスマホ画面を見せてくるので、それを一目してから目を逸らした。
いかにもなデートスポットだった。
男2人で行ったって楽しくないだろう。
「じゃあうちにしよ。いつものやつ。」
「……まぁ、それなら」
放課後に一志の家でテレビゲーム。
俺たちの関係はほんとに驚くほど進展していた。
お互いを名前で呼ぶくらいには友達らしさもあった。
一志の押しに負けてってわけではない。
一志は、友達としては普通に良い奴だった。
隙あらば口説いてくるのさえなければ、友達としてやっていけるくらいには悪い奴ではなかった。
当初俺が思い描いていたような、肩を並べられる友達……ていうのとは少し違っていたけど、居心地の良さはあった。
最初は家になんて行ったら無理矢理事に持ち込もうとしてくるやつだと思ってた。
けど、普通に会話して、ゲームして、終わった。
あんまり普通だったから、拍子抜けした。
あんな直球でアホなこと言ってくるやつだから、部屋に上がったら押し倒して来るんだと思った。
そのことを、何度目か一志の部屋に上がった時に会話の流れで聞いてみたことがある。
一志は笑って答えた。
「そんなの楽しくないだろ」
そう言った。
お互いを求めあってこそ気持ちいいんだと。
人の彼女を寝とるやつなんだから、ヤれればいいんだろと疑ってた。
俺の事だって、気に入ってるのはこの顔だけなわけだし。
俺だって、性欲処理でセックスはしない。
好きな子としかしないし、交際してない相手となんてありえない。
だから、俺が一志と寝るってことは、俺が一志を好きで、一志も俺を好きじゃないとありえない行為だ。
……まぁ、ありえないことだろうけど。
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