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〇月×日『苦いスープ』
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「……」
矢野くんの部屋の机の上に、分厚い冊子を発見。
賃貸?
「え、」
何ヶ所か付箋がうってある冊子を思わず手に取って中を見る。
いろんな間取りのアパートが沢山。
なにこれ……
「ゆず、コンソメかコーンどっちが……」
矢野くんがマグカップ2つを手に部屋に入ってくる。
スープを持ってきてくれたみたいだ。
「矢野くんっ、これ何?家出るのっ?」
「ぁー……違う。それ蘭さんの」
先輩の……
「卒業したら家出るらしいから、部屋探してるんだよ」
矢野くんが僕の隣に腰掛けながらカップを2つ僕の前に差し出してくる。
戸惑いながらもコンソメスープのカップを手に取る。
「……びっくりした…………出ていっちゃうのかと思った…」
「まぁ、蘭さんが部屋貸りたら転がりこむかもしれねーけど」
転がり込む……
半同棲?
それとも、僕が篤也さんの部屋へ通っていた時のような感じだろうか……
「先輩……大学きまったんだ?」
「ああ、地方の本命はあの糞野郎のせいでダメになったから、県内の大学にな。この辺の大学レベル高いらしいから、すげー頑張ってた」
矢野くんがコーンスープを口にしながら話してくれる。
糞野郎ていうのは、篤也さんのことだろうか……
篤也さんも矢野くんをそんなふうに呼んでいたような……
「3人姉弟の末っ子なんだってさ。なんでも父親が3人組美少女アイドル?のファンだったらしくて、だから蘭なんだってさ。本人は女ぽいって気にしてるみたいだけど、でも可愛いよな、似合ってるし」
矢野くんが楽しそうに微笑む。
「上の姉さんたちが先に家出てたらしいけど、実家に帰ってきて騒がしいし狭いから丁度いいんだってさ」
「……へぇ、」
「ま、色々あったけど、お前世話になったんだからオメデトウくらいいっといてもいいんじゃねーの?」
「そうだね……、こんどあったら言う」
「ああ」
矢野くんはスープを飲み干すと、僕から賃貸アパートの冊子をとりあげて見はじめる。
矢野くんが家を出るわけじゃなくて嬉しい。
けど、矢野くんとの会話の中に出てくる先輩の話を聞いていると、矢野くんが先輩をどんどん知って、どんどん好きになっていくのがわかる。
スープの1口1口が苦い。
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